無自覚症候群 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ この場合――傍観者であることほど、楽しいことはない。 「どこもコレでギリギリなんです。本当にごめんなさい」 そう言って、美夏ちゃんはにっこり笑った。 ありゃ男バスの部長、見惚れちゃってるよ。確かにあの笑顔は愛らしい。でも中身は結構キツいんだな、そのお嬢さん。まあ見事に騙されちゃって。アレは暫く使いモノにならなそうだ。隣に座ってるマネージャーが睨んでるっていうのにね。 次に、俺は別の場所に目を向けた。 「これが前年度、こちらがその前の。あと過去10年分は遡ってみましたけど、この金額で充分やっていけると思いますよ。ベースは去年よりアップしてるんですから」 そこには理路整然とまくしたてる紗耶ちゃんがいた。 あー、放送部の部長が完全にびびってるよ。アイツ、気が弱いからなあ。でも最新の機材が欲しいんだろう。後輩であるクールビューティーに、涙目で立ち向かっている。 俺はそんな周囲の様子を眺めて、満足感いっぱいに頷いた。 「今期の子達も仕事が早くて、結構結構」 また見た目もいいからねえ。こういうときは効果覿面ってね。 俺は鼻歌混じりに呟く。するとそれを聞き咎めた可愛い後輩が、音もなく隣に立った。 「それだけのために、アイツらを引き込んだんじゃないでしょうね?」 目をすがめてこちらを見ているのは、彼女らの友人で俺の後任。 「あれ、大亮くん。ご機嫌斜め?」 現生徒会長である彼はうんざりしたように息をつくと、持っていたプリントを投げて寄越す。 「ご苦労さん。……あ、もうこんなに了承取ったんだ」 「了承させました!」 唸るように彼は言った。そして再びこちらを見ると、不満げに尋ねてくる。 「で、さっきの質問ですけど」 「それもあの子たちの実力の内だからね。否定はしないよ」 俺がゆるゆると笑みを浮かべると、大亮くんは噛みつかんばかりの勢いで吠えかかってきた。 「会長っ!」 「会長はキミでしょ。俺は隠居の身」 そう告げて俺――前生徒会長・沢渡陽一(さわたり・よういち)は、教室全体をゆっくりと見渡した。 |