無自覚症候群 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「興味本位だったんでしょ。わたしと大亮が、よく一緒にいるから」 からかい半分につついてやろう、と。確かにあの会長なら、考えそうなことだ。つまらなそうに呟く美夏の横顔を、俺は何とはなしに見つめた。そして、暫く二人して黙り込む。 俺たちが一緒にいるようになって、もう十年以上経つ。そんな中ここ二、三年の間は、こんなことを質問されるようになった。 ――曰く。 『付き合ってるのか』 『付き合わないのか』 いわゆる色恋に関する事だ。今度の会長の件もそのひとつ。まあ、こうまで極端な掻き回し方をする人も珍しいが。 咲岡美夏という人間は、男女問わずに評判がいい。そして俺もそれなりに目立つポジションにいることが多かったから、余計に周りの興味をひくことになったんだろう。 だから俺たちはこういう事には慣れっこだったし、そのたびに『困ったもんだ』と苦笑いをしていたのだが。 何だか今日は、空気が違った。 俺が色んなモヤモヤを抱えているせいかもしれないが、美夏の様子も少しおかしい。何だか微妙な距離を感じる。 つらつらとそんなことを考えていると、再び美夏が口を開いた。 「わたしもね、勧誘されたよ」 あー、やっぱりな。 俺はがしがしと頭を掻いた。やっぱりコイツにも話がいったか。 「悪いな。芋づる式に巻き込んで」 ため息混じりに俺が言うと、美夏はふるふると首を左右に振った。 「別に大亮のせいじゃないでしょ」 確かに美夏だって役員の経験者なんだから、いつ声が掛かってもおかしくない。だがしかし。 「俺の説得、頼まれたんだろ?」 そう尋ねると、美夏は黙って頷いた。 「なら、余計に悪かったな」 美夏は俺が渋っているのを知ってるんだ。それで説得なんて頼まれたって、いい迷惑だったに違いない。 それでも美夏は嫌な表情(かお)をせず、『気にしないで』と言った。 |