falsao 10
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 けれど、気になるのだ。出逢ったばかりの頃とは違う、思っていたよりずっと素直でお人好しな彼女のことが。自分以外の誰かのことで、涙を流せる彼女のことが。そこまで考えて、美晴は片手で顔を覆った。本当に何を考えているんだ。今はこんなことを考えている場合ではないというのに。あと数日もすればセンター試験だ。いつまでも学校に居残ってぐずぐずしている暇があるのなら、さっさと帰って勉強するのが正しい受験生というものだろうに。

 こんな考えがなかなか頭から離れないのは、やはり勇樹に会っていないからだろう。二学期の終業式からおよそ二週間、彼女からは一度メールが来ただけで、それ以外に何の音沙汰もなかった。それがどうも美晴の調子を狂わせているらしい。休みの間から今現在も、美晴の胸の内はずっと座りが悪いままだった。夏休みも期間が長く、そのうえ気まずい状態になっていたから落ち着いていたとはけっして言えなかったのだが、夏期講習や神高祭の準備で顔を見る機会に恵まれていたせいか、今ほど不安定な感じはなかったように思える。

 夏の気まずさが解消されてからは、毎日会って会話するのが当たり前になっていた。その繰り返しが自分の安定剤になっていたのだろう。だから多分、そのせいだ。会えると思っていた彼女に会えなくて、更にこれから自分は受験を控えて自由登校となり、もう数えるほどしか学校に来ない。次に彼女に会えるのは卒業式になってしまうかもしれない。それに受験本番も近づいているから、柄にもなく緊張しているというのもある。そんな積み重ねがきっと美晴の心をざわつかせているのだろう。きっと、それだけだ。他意はない。

 今度こそメール画面を終了させて、美晴は携帯を閉じた。そして素早い動作で立ち上がると、さっきまでの迷いを振りきるようにして、携帯をブレザーのポケットにしまいこむ。

 きっと勇樹は風邪でもひいたのだ。この時季に体調を崩すなど別に珍しいことでも何でもない。わざわざ自分ごときが気を揉まなくても、彼女には心配してくれる友人がいくらでもいる。それよりも自分は自分のことを何とかしなくては。

 半ば強引ではあったが、美晴はそう自身に言い聞かせると早足で誰もいない教室を後にした。家に帰るまでには完全に受験モードに頭を切り替えなければと、焦った気持ちで思いながら。


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