falsao 10
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 おそらく体調を崩して欠席しただけなのだろう。そんなふうに予想をつけたものの、美晴の指先が動く気配はない。今日はどうしたのか、体調は大丈夫なのか――訊ねたいのは、そんな当たり障りのないことだ。いつも面と向かって口にするように言葉にしてしまえばいい。だが、今はそれがうまく出来ないでいる。そもそも。

「当たり障りなくって……どうしてたっけか」

 思わず頭を抱えたくなったのを堪えて、美晴はひとりごちた。友人にだって、家族にだって宛てるような内容のメールだ。何も躊躇うことはない。そう難しいことでもない。けれど何故か妙な緊張感がまとわりついて、美晴はそれを送ることができないでいた。

「――やめとくか」

 我ながららしくない弱気な声が誰もいない教室にやけに大きく響いた。パチンと音を立てて携帯を閉じて、――少し考えた後、またそれを開く。勇樹のアドレスを呼び出すまでの指の動きは速い。けれど相変わらず、文章を作成しようとするとその動きは途端に鈍る。

(何やってるんだ、俺は)

 今度は声には出さずに胸の内だけで呟くと、美晴は盛大なため息をついた。たいしたことをしようとしているわけではない。ただ日頃から親しくしている後輩が休み明け早々、学校を欠席しているから。少しばかり気になって、メールしてみようかと思いついただけのことだ。ただそれだけのことに、いつまで自分は迷っているのだろう。そもそも迷うくらいなら、やめておけばいいのだ。別に送らなくても、誰かに責められるわけではないのだし。大体、勇樹が自分からメールを貰ったって特別喜ぶわけでもないし、逆に貰えなかったからといって悲しむわけでもないだろう。

 そうだよな――そう思い直しながら、反面で美晴は落ち込んだ。自分らしくない後ろ向きな想像に、思わぬダメージを受けた気分だ。だが、それは事実だった。いくら距離が近づいたとはいえ、美晴と勇樹の関係は契約から始まった不純なものなのだから。もうじき終わってしまう、偽物の恋人関係。

 だから、迷ってしまうのだろうか。躊躇ってしまうのだろうか。些細なことを気に掛けて――そんな本物の関係だったら当たり前のことが自分に許されているのかどうか、今の美晴には分からない。ただ自分が楽になるためだけに彼女を縛りつけて、嘘を強要した。そんな自分が今更彼女を心配しているなんて、何て滑稽な話だろう。


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