falsao 10
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 声が聞きたい。顔が見たい。

 いつのまにか、まるで小さな子どものように欲張りになっている自分に驚いた。



「……いないのか」

 始業式が行われる直前の体育館。美晴は軽く背伸びをして一年生の列を見渡していたが、目的の人物の姿がないのが分かると、吐息混じりにそう呟いた。上げていた踵をゆっくりと下ろして、何となく頭に手をやる。

(……遅刻か、欠席か)

 遠目ではあったが、くまなく探したつもりだ。彼女が親しくしている友人の姿は簡単に見つけられたのだ。それで彼女を見落としているということはないだろう。

 風邪でもひいたのだろうか――そう考えて、美晴は壇上のほうへと目を向けた。そろそろ校長の話が始まるようだ。毎度似たような内容の話を生真面目に聞くつもりもないが、あさってのほうを見ていて悪目立ちするのもいただけない。なので、表面上だけは真面目に見えるよう、美晴はその場で姿勢を正した。だが、頭の中の大半は別のことで占められていた。

 新年早々、神原勇樹は一体どうしたのか――このときの美晴は、受験生らしからぬそんな思考に捕らわれていたのである。


 * * *


 仮にも付き合っているのだから、連絡先を知らないわけではない。それでもそれを知ったのは、勇樹と知り合ってからずいぶん経った頃――神高祭の代休の前日のことだった。代休の日に出掛ける約束をしていた自分たちが、待ち合わせのときに何かあったら困るからという理由で交換したのはお互いの携帯電話の番号とメールアドレス。けれど、それを頻繁に活用しているのかと言うとそれほどでもなかったりする。

 やりとりをしたのはその日の夜、勇樹から来たウサギの香立てのお礼メールに返信したのと――あとは先日交わした年明けの挨拶メールぐらいだ。電話に至っては一度もしたことがない。

 当然と言えば当然だ。いくら親しくしているからとはいえ、やはり彼女と自分はそういう関係ではない。だから、本物の恋人同士のようにまめまめしく連絡を取り合う必要性を感じたことはなかったのだが。

「…………」

 HRが終了した教室の中、美晴は携帯電話としかめっ面で睨み合っていた。向き合っているのは新規メールの作成画面だ。宛先には既に勇樹のアドレスが表示されていて――だが、美晴の手は文章を作成する直前でぴたりと止まったままだった。



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