falsao 9 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「そんなに難しく考えることねえって」 そう言って、彼はニカッと笑う。 「何も一人でやれって言ってんじゃないんだ。どうせ任期終了なんて表向きの話で、来年の今頃までは俺たちだって手伝ってやれるし。それに楽しみにしてんだぜ?」 美夏がな――そう言われて、自分がこれ以上無下にできるわけがない。勇樹は頭を抱えて唸った。 「ずるすぎる……っ!」 「悪いな。こっちも手段を選んでられなくて」 「わたしに拒否権はないんですかっ!」 「拒否すんのは勝手だよ。お前が断りきれるっていうならな」 でも、美夏が残念がるだろうなあ……などと聞こえよがしに、大亮は呟く。その横で陽一が含みのある笑みを浮かべている。その両者を見比べて、勇樹は絶望的なため息をついた。 「……もう少し、考えさせてもらってもいいですか?」 この要請から逃れることは十中八九で不可能だ。けれど、この場で「はい、分かりました」と言えるほど簡単な問題ではないし、まだ納得も出来ていない。とにかく今は冷静になりたい――そう考えて、勇樹は大亮たちを見上げて言った。その言葉に二人は鷹揚に笑う。 「うん、しっかり考えてみて」 「それでも決心がつかないっていうなら、後で美夏のヤツを行かせるから」 「いやー、ここはやっぱり彼氏たる美晴ちゃんの出番なんじゃない?」 「……どっちもやめて下さい」 心底げんなりとして言い返す。そんな勇樹をどこか懐かしいものでも見るように眺めて、大亮が再び口を開いた。 「俺もさ、実際に会長やる前は色々文句もあったんだけどさ。今は愛着あるんだよ、生徒会に。だから出来れば、信頼できるヤツに後を任せたいわけ。……そういう意味で、お前は適任なんだよ」 そして去り際に、ぽんと肩を叩かれる。それ以上は何もない。軽やかとも言えるような足取りで大亮は歩き出し、陽一もまた湛えた笑みをそのままにして、その後を追った。それをぼんやりと見送って、勇樹は大きく息を吐く。 「……何だったの、一体」 まるで嵐に遭遇したような、そんな一時の邂逅。彼らと交わしたやり取りを頭から思い出して、どっと出た疲れに勇樹は肩を落とした。 |