falsao 9 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「フツーに楽しく、やってるよ」 自分の本心が求めているものとは違うけれど。それでも全くの嘘から生まれたにしては、良い関係を築けていると思う。贅沢を言ったらキリがない。あの人が自分の存在を快く受け入れてくれている。そのことだけで満足しなければ。 今のままでいれば、きっと美晴は卒業しても勇樹のことを忘れないでいてくれるだろう。生意気で甘いものが大好きで、男嫌いの少し変わった後輩がいたことを記憶に留めておいてくれるに違いない。それだけで、充分だ。 報われないことが必ずしも不幸だとは思わないから。美晴と共に過ごすうちに変われた自分を少しでも誇れるなら、今のこの気持ちだって無駄なものではない。 いつもそうしているように自分に言い聞かせて、勇樹は再び口を閉ざした。その様子を不審に思ったのだろう。実琴がわずかに目を眇めた。 「フツーにって言うわりには浮かないカオだけど」 「そう?」 いつもこんなもんだよ――嘯くように言って、勇樹は軽く笑ってみせた。だが、実琴は笑わない。神妙な面持ちで、こちらを見ている。 「……勇樹はさあ」 少し間を空けて、静かな声で実琴が言った。 「元々、隠し事が出来ないヒトなんだからさ。無理しないほうがいいよ」 「そんなこと、」 「あるよ」 あんまりみくびらないでよね! と実琴にしては珍しく強い語調で反論をすかさず押さえ込まれて、勇樹はぐっと黙り込んだ。思い当たる節があるだけに、これ以上は強く出られない。そんな勇樹に今度はすっかり呆れ返った様子で実琴が口を開いた。 「龍堂先輩の勉強が忙しくなってきたから、最近学食デートしてないんでしょ? それで物思いに耽ってるんだもん。……寂しいのかなーとか思われたって、仕方ないんじゃない?」 そう、なのだろうか。少しばかり強引な言い様に首を傾げながら、反面で「そう見えるのかもしれない」とも納得した。確かに、こうやって周囲の目を忘れて考えこむようになったのは、美晴に会えなくなってからだ。それまでもそういうことはあったけど、今のほうが格段に頻度が高い。その自覚はある。だから実琴に突っ込まれても、確かに仕方のないことなのかもしれない。だが、これ以上突っ込まれるのは心臓に悪い。勇樹は小さくため息をつくと、どうにか話題を変えようと口を開いた。 |