falsao 8
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 だから、おかしくなんかない。

 彼女が気に入った物をプレゼントしたいと思うのは。

「これ、かな?」

 ディスプレイされたうさぎの下にある小箱を手に取って呟く。ひっくり返して確かめた値札シールに書かれていたのは実に手頃な値段で、それが美晴の思いつきを後押ししてくれた。

「それじゃ、会計してくるから」

「えっ? ちょっと!」

 するりと脇を抜けて行こうとした美晴を、勇樹が慌てて呼び止める。

「先輩、それ……」

「今日のお礼」

 あえて勇樹の目を見ずに、美晴は応じた。

「気に入ったんでしょ?」

「それは、その……でも貰えませんよ! 別にたいしたことしてないし!」

 予想通り困惑した様子で、勇樹は遠慮した。ふと目をやれば、勢いよく首を横に振っている彼女と目が合う。

「ホントに! お気遣いなく!」

 あんまり勢いがいいものだから、目が回ってしまうのではないかと心配になった。美晴はとりあえず落ち着くようにと、何気なく勇樹の頭に手を置いて。

「俺の気持ちだから」

 そう言って、宥めるようにぽんぽんと軽く少女の頭を叩く。

「だから、もらってやってよ」

「……っ」

 言うだけ言って、美晴はそのままレジへと向かった。背中を追ってくる勇樹の反論はない。あったとしても、聞く気は欠片もないが。でも、少し気になって。

 包装を待っている間、ちらりと窺った勇樹の表情は困りきった様子で、何だか泣き出しそうに見えた。だから、そんなに迷惑なのかと不安に駆られたのだが。

 それでも店の外であらためて礼を言って、可愛らしく包装された小箱を手渡したとき、勇樹は笑ってくれたから。やっぱりどこか困ったように――けれど三日月のように細くなった瞳に、今までに見たことのなかった柔らかさが浮かんでいたから。

 だから、美晴は心から安堵した。そして彼女をそんな笑顔に出来たことに、こっそりと誇らしい気分になったのだった。



  【続】



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