無自覚症候群 4
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「いつまで逃げるんだ?」

 俺がそう訊ねると、ヤツは実に憮然とした表情で即答する。

「諦めてくれるまで」

「無理なんじゃねえの」

 俺がさっくりとそう言うと、大亮は顔をしかめる。苦虫を噛み潰した顔って、こういうのを言うんだろうな。俺はそう思いながら、再び口を開いた。

「お前、別に嫌なワケじゃないんだろうが」

 そうだ。コイツは別に生徒会の仕事が嫌いなわけじゃない。基本的に人が好いから、頼られたら邪険に扱うこともできない。厄介事は嫌いだと言いながら、やるとなれば状況を楽しむだけの順応性も持っている。

 これが俺を含め、周囲の人間の『武村大亮』に対する評価。

「今までだって、それなりに楽しそうにやってたじゃねーか」

 大亮と俺、紗耶と美夏。四人でよくつるんでいたせいか、中学時代にはセットで生徒会役員としてかり出された。文句を言いながらも大亮はよく働いてたし、美夏はそんなヤツを苦笑混じりにサポートしていた。紗耶は高い事務処理能力でてきぱきと仕事をこなして、俺は部活と並行して忙しいながらも楽しんでやっていた。

 結局、楽しかったんだよな。忙しくて文句たらたらの時もあったけど。

「……美夏と同じこと、言うなよな」

 大亮は頭をガシガシ掻きながら、俺から視線を外した。

「美夏もわかってるんだろ」

 そして紗耶も。

 意固地になってるだけなんだ、コイツは。

 俺たちの中で一番楽しそうにやってたお人好しが、果たして断りきれるのか。

「無理なんじゃねえの」

 もう一度、俺は言う。

 大亮はこちらを見ることなく、吐き捨てるように言った。

「ヒトの気も知らねえで」

「つまんないプライドだろ」

 牛乳パックを弄びながら淡々と俺が呟くと、ヤツはこちらを睨み付けてくる。しかし俺は動じることなく、そのまま続けた。

「きっかけは何であれ、お前が気に入られて頼まれてるんだ。それに応えていけるだけの実績がお前にはあるだろ、ちゃんと」

 そういう奴だってことを、俺は知ってる。もちろんあの二人も。だから美夏は俺と似たようなことを言ったんだろうし、そういう奴だから紗耶は惚れてるんだろう。

 実の姉と比べられて、面白くないと思う気持ちは分からないでもない。その姉の思惑通りになってばかりいるのが癪に障るのも、まあ当然の話だ。それでも頼まれ事を拒まずやってきたのは大亮自身で、そうすることを選んできたのもヤツ自身だ。

「それを今更意地になって逃げようったって、そう簡単に行くわけないだろうが」

 呆れを含ませて言った科白に、ヤツはなおも反論する。

「今回はやる気ねえんだよっ」

「それでもやってほしいんだろ、先方は」

 それだけ買われてるってことだろうに。

 いくら伝説級の元会長のお墨付きでも、それだけで曲者の現会長がここまでしつこく勧誘するとは思えない。――それに。

「何だかんだ言って、お祭り事は好きだろ」

 その事を俺たちはよく知ってる。実際、目の当たりにしてきたし。その様子を耳にして、コイツの本性を見抜けないような無能な人間ではないはずだ。あの曲者会長様は。



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