falsao 7
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 一度は見なかったふりをした。これ以上、美晴側の事情に首を突っ込んではいけないと思ったのだ。だから、あのときは逃げるようにして美晴の家を後にした。変に重苦しかった、不可解な感情の処置に困っていたせいもある。

 苛々したのは、美晴が自分に嘘を吐いていたのが分かったからだ。自分は女嫌いで、だから女子と付き合うのが面倒なんだ――そう言って、美晴は勇樹に偽の恋人という役割を望んだ。それなのに、実際はちゃんとした想い人がいた。そして、その相手にも誤解を招くような嘘を続けることを求められて――そのとき、勇樹は美晴の考えていることがいよいよ分からなくなった。

 とはいえ、冷静に考えれば、美晴が勇樹に何もかも本当のことを言わなければならない義理はない。美晴の本心なんて知らなくても、そこに利用価値がある限り、関係は続けていける。自分たちはお互いに煩わしいことのない、気楽な学校生活を送るためにこの関係を続けてきただけなのだ。だから、偽物の関係に相手の本心を知ることなど必要ない。勇樹はそう考えて、自分の中に生まれたどろどろとした感情を宥めた。けれど、それはあまり上手くいかなかった。

 学校で美晴を見掛けるたびに、あの日の彼の――沙代子を見る目を思い出した。勇樹や他の校内で行き合う人間に対するより、ずっと気安くて柔らかい態度や言葉。その総てが、沙代子が他の誰より美晴にとっての『特別』であることを表していた。それをまざまざと見せつけられて、勇樹は身動きが取れなくなってしまった。だから、今日までずっと彼を避けてきたのだ。けれど。

 今日になってはじめて、美晴は勇樹を掴まえに来た。今までは逃げる勇樹を物言いたげに見ながらも放置していたくせに、だ。彼にしては珍しく強引で子供じみたやり方で、勇樹の足を止めた。そして求めたのだ。勇樹の考えたこと――あの日、勇樹が感じたことを教えて欲しいと。その言葉を、勇樹は不可解に思いながら聞いていた。

 ――どうして、この人がわたしに対してそんなに真剣になるんだろう?

 久しぶりに直視した美晴はひどく困った表情をしていた。『悪いことをしたなら謝りたい』と言って、途方に暮れたように勇樹を見た。勇樹にしてみれば別に謝罪も弁解も求めていないし――そもそも、謝罪してもらうようなことだとは思っていなかった。だから美晴の行動には、ただ驚くばかりで。



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