falsao 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ さて、どうしようか。美晴はゆっくりと顔を上げた。そのときだ。勇樹が生真面目な表情で問うてきた。 「どうして……言わないんですか?」 「ん?」 意味を把握しそこねて、美晴は首を傾げる。上手く言葉が出てこないのか、勇樹はもどかしそうに胸に手を当てて、もう一度口を開いた。 「どうして……言わないどころか、誤解されるようなことして。あんなに親しそうなのに、何で騙すような真似、」 言い募る勇樹に、美晴はふと顔をしかめる。それを見て、勇樹は肩を落とした。ごめんなさい。余計なこと言って。小さく頭を下げてから黙り込む。 全くだ。そう思いながら、反面では仕方がないとも考える。勇樹にしてみれば、美晴に頼まれた役割を考えたら、どうしたって訊かずにはいられない。そして、彼女を巻き込んだのは美晴自身なのだ。そう問われても仕方がない。 ぼんやりと見返した勇樹の表情には、揶揄するような色は一切入っていなかった。それどころか、美晴の想いの行く末を真剣に案じているような気配さえある。犬も三日飼えば情が移ると聞いたことがあるが、彼女もそんなふうに思ってくれているのだろうか。美晴が彼女を気に入っているように、彼女もまたこの関係に愛着を持っていてくれるのだろうか。 後になって考えてみれば、魔が差したとしか言い様がない。ただ、この居心地のいい場所を手放したくなくて、うっかり――本当にうっかり美晴は手を伸ばしてしまった。答えを告げれば、勇樹を更に巻き込むことになると気がつきもせずに。 「――だって、仕方ないでしょう」 自嘲気味に笑って、美晴は肩を竦めてみせた。 「あの人、もうすぐ人妻になるんだからさ」 【続】 |