falsao 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ いつもなら結構な数の人間が出入りしているこの部屋も、美晴と美夏の二人きりのせいか、今はひどく静かだった。外から聞こえてくる運動部員の掛け声も、どこか別の世界のもののようだ。窓辺に佇む後輩の後ろ姿を何となく視界に入れたまま、美晴はカップに口をつけた。程よく冷房が効いたこの室内では、アイスよりホットのほうがちょうどいい。 美晴が使っているカップは彼が役員になってから持ち込んだ、彼専用のものだった。一応、形ばかりの引退をしているはずの身としては、早いところこの場所から私物を引き上げるべきだとは思うのだが、こう出入りが多いとなかなかその気にもならない。とはいえ神高祭が終了してしまえば、そんなことも言ってられないのだろう。祭りの後にあるのは次の役員への引き継ぎだ。そして、今度は美夏たちが今の美晴の立場に置かれることになる。 「……そういえば、次に指名する人間はどうするか決めた?」 ふと思いついて、美晴は訊ねた。自分たちの代が――というか、陽一が大亮を自分の後釜にすると決めたのは昨年の夏休みより前の話だったのだが、大亮が次に誰を選ぶつもりなのかはまだ聞いたことがない。 首を傾げて促すと、身体ごとこちらに向き直った美夏が困ったように眉を下げた。 「一応、何人かは目星つけてるんですけどね。神高祭の準備期間の様子を見て、決めるつもりみたいです」 「そうか」 美晴は軽く頷いて、頭の中に何人かの後輩の顔を思い浮かべた。そのいずれも、委員会の集まりなどで接点がある者ばかりだ。大亮が選ぶとしたらこの中からになるのだろうなと思いつつ、その顔触れに対する感想をぽつりとこぼす。 「……今年の一年はおとなしいのが多いからな」 真面目なのは美点だが、どうにも面白味に欠けるというのが、ここ最近で美晴が抱いた印象だ。春は綺麗所が多いと評判だったが、いかんせん生徒会に欲しいのはそういう人材ではない。思わず眉をひそめてそう言うと、美夏が苦笑するのが見えた。彼女は可笑しいと言わんばかりに口を開く。 「その綺麗所をカノジョにしてる先輩が言うことじゃないでしょう」 「……彼女はカノジョだからね。求める要素が違うだろう」 美晴は憮然としてそう返すと、視線を僅かに落とした。もちろん、勇樹との関係は偽りのものだ。だが、あれから――本を貸したあの日からまともに会っていない今となっては、それすらも怪しい。 |