無自覚症候群 3
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 彼の背は高い。そして柔道部で常日頃から鍛えているせいか、がっしりしている。その上強面のため、一見しただけではあまりお近づきになりたくないタイプに思われがちだ。

 だけど実際の所は、そうでもない。性格はいたって温厚だし、義理堅くて友達思いな人。――そう。彼女でもないオンナノコの突発的な思い付きに、根気よくつきあってくれるような。

 自嘲めいたため息をついたあたしに、雄太くんが声をかけてきた。

「……腹でも減ったか」

「……まあね」

 視線を上げることなく、あたしは答えた。

 いつも通り、気がついているのだろう。あたしが彼を呼び出した理由(わけ)に。

「何か食ってくか」

 それは『つきあってやる』と、暗に了承してくれた科白。あたしは安堵して、今度はしっかり彼を見上げて答えた。不敵に笑うことも忘れずに。

「奢りならね」



*  *  *



 駅ビルを出て再びバスに乗り、あたし達はそれぞれの自宅にほど近いコンビニにやって来た。中学時代、よくたまり場にしてた店で店長さんとも顔馴染み。あたしと美夏、雄太くんと大亮の四人で何かというと集まっていた場所だ。

「あったまるなー」

 そのコンビニ前で、あたしと雄太くんは中華まんを立ち食いしていた。厳密にいうと、あたしの手にはピザまんとホットのミルクティー。雄太くんの手にはカレーまんとホットのブラックコーヒー。それらを各々手に持って、口元から白い息と湯気をたてながら味わっていた。

 コンビニ前の道路はバス通りだから、それなりに車や人の往来も多い。そりゃ昼間に比べれば格段に少なくはなっているんだろうけど。そんなことをぼんやりと思いつつ、通り過ぎていく人を眺めていた。ちょうど、誰かを探すような目で。

「大亮なら、今日は生徒会から呼び出しなかったからさっさと帰ってったぞ」

「……知ってる。代わりに美夏が掴まってた」

 あたしが誰を探しているのか、雄太くんはお見通しだ。だからご丁寧に教えてくれたが、そんなことはこっちも分かってる。

 それでも今、此処に来てくれたらと思ってしまったのだ。

 そしたらこの中途半端なキモチに、もっと簡単に折り合いがつけられるんじゃないかって。

「美夏まで呼び出されたか。……大亮が折れるのも時間の問題じゃないか?」

 なかなか本題を口にしないあたしに痺れをきらす様子もなく、雄太くんはゆったりとした口調で言った。あたしはそれに、肩を竦めるだけで応じる。

 今回はまた随分と意固地になってるみたいだけどね。

 ピザまんを頬張りながら、あたしは目線を足下に向けた。今は上を向いていられるほど、元気じゃない。

 寂しい、と美夏は言った。

 それをあのコ、どんな表情(かお)して言ったのか自分で分かってるんだろうか。

 苛立ちともいえる思いが、あたしの中で渦巻く。

「美夏ね、会長に告られたんだって」

 勿論、この上ない冗談で。

 勿論、完膚なきまでに突っぱねたようだけど。

「で、やっぱり大亮との仲を訊かれたらしいわ」

 そんなふうに引っ掻き回されるくらいなら。

「さっさと自覚して、付き合っちゃえばいいのにね」

 ひとりごちるように呟いた言葉に、雄太くんは深いため息を落とした。




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