falsao 4
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 何故かやたらと機嫌の良い様子の陽一に連れられてやって来たのは、もはや私室といっても差し支えないであろう生徒会室だった。放課後は役員とその他の委員長の出入りが多いこの部屋も、今は球技大会の真っ只中なだけあって実に静かだ。

 机の上にばらけたままになっていたプリントを何とはなしにひとつに纏めながら、美晴はふと窓の外へと目をやった。そして、そこに見慣れた少女の姿を見つける。

(――ん?)

 ちょうどサッカーの試合の最中なのだろう。何人かの女子がグラウンドを走り回っており、その周囲をクラスメイトが応援で取り囲んでいるのが見えた。美晴が少女――神原勇樹を見つけたのは、その応援団の中だ。

 友人に囲まれて、屈託なく笑う彼女。もちろん周りにいるのは同性の友人だ。だから安心して笑っていられる。それが証拠に、クラスメイトらしい男子が話しかけてきた瞬間、勇樹はそろりと友人たちの輪から離れて行った。相変わらず徹底している。美晴は思わず苦笑した。

 すたすたと若干早足で、勇樹は校舎側――すなわち美晴のいるこちら側に向かって歩いてきた。だが、美晴の存在には気づいていない様子で、適当な所で足を止めて再びグラウンドの方に向き直った。その後ろ姿をぼんやりと眺めつつ、美晴は軽く首を傾げた。

(……気にするほどのものじゃないと思うけどね)

 先日、勇樹からされた『報酬辞退宣言』を思い出して、ぽりぽりと頬を掻いてみる。視界に入る勇樹の後ろ姿は小さくて、真っ直ぐで、細い。クラスで揃いであつらえた物なのだろう、紺色のTシャツから伸びた腕もほっそりとしていて、本人が気にするような点は見当たらないと思うのだが――そこはやはり女子だから、ということなのだろう。今はいい大人のあの人だって、未だにそういうことを気にしているみたいだし。そこまで考えて、美晴は小さく嘆息した。脳裏によぎった、この場にはいない人間の笑顔を振り切るように、かぶりを振る。

(……考えるな)

 考えたって、もうどうしようもないのだから。強く自身にそう言い聞かせて、美晴はゆるりと目を上げる。――と、いつの間に気づいたのだろう。勇樹が外からこちらを見ていた。目が合うと彼女は弾かれたように姿勢を正して、軽く会釈してくる。その一連の動作が小動物のようで、美晴は表情を和らげた。すると、勇樹のほうも笑みを返してきて。


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