falsao 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 二人並んで向かった先は、一階にある学食だった。そこの一番奥の、窓側の席に向かい合わせで腰を掛ける。 勇樹が腰を落ち着けている間、美晴は手荷物の中から小さい紙袋を取り出した。そして『中、出しておいて』と告げると、学食を出て行く。多分、すぐ側にある生徒会室に行ったのだろう。あそこは関係者ならコーヒー飲み放題らしく、この『恒例行事』のときにはよくご馳走になっているのだ。だから、今日もきっと貰いに行ったのに違いない。 足早に去っていく美晴の背中を見送ってから、勇樹は件の紙袋を自分の方に引き寄せた。中を覗き込んでみると、そこに入っていたのは有名な老舗和菓子屋の水羊羹だった。それを確認して、勇樹は複雑な面持ちでため息をつく。 どうして、あの人はヒトの好みをこうまで的確に把握しているのだろうか。勇樹自身が特に教えたわけではないのに、美晴が用意してくれる報酬は全て、勇樹の舌とお腹を充分満足させてきた。有名店の和菓子、洋菓子――それとコンビニで売っているようなお菓子まで、色々とご馳走になったが今までハズレに当たったことがない。 最初の数日は警戒心の固まりのように接していた勇樹だったが、連日の美味しいもの攻勢に、最近はすっかり毒気を抜かれてしまった。よく『男心は胃袋で掴め!』という話を聞くが、あれは女に対しても有効であるらしい。未だに不可解な点はあるものの、美味しいものは美味しいし、美晴自身も思っていたより有害な人物ではないらしいし。そして何より予定通り、立派に『男避け』としての役割を果たしてくれている。なので、今のところはそう神経質にならなくてもいいかと思っているのが勇樹の偽らざる本心だ。 ――とはいえ。 (全く問題がないわけじゃあないんだよねー……) 袋の中身を取り出して、勇樹は眉をひそめた。そこに掛かった、声。 「どうしたの? 難しいカオして」 今日のはお気に召さなかったのかな――契約を交わしたあの日と変わらない穏やかな声でそう言って、戻ってきた美晴が首を傾げた。手には湯気が立つ、マグカップが二つ。それをちらりと見てから、勇樹は無表情に首を横に振った。 |