falsao 2
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 ――何か、縁でもあるんだろうか。

 胸中でひとりごちて、美晴は前髪を掻き上げた。彼女は一年、自分は三年。部活でも、委員会でも接点のない者同士が、この広い校内で行き合う機会はそうあるものではない。まして、この曲者の巣窟と呼ばれる天文部のお膝元でなら尚更だ。

 この地学準備室及び、扉の向こう側の実験室に出入りする人間は、天文部の部員以外ほとんどいないのだ。教師陣すら、この魔窟にはあまり入りたがらない。美晴がこうして出入りしているのは、同じ役員をやっていた友人が天文部に所属していたのと、部自体にちょっとした貸しがあるのとで、空き時間を潰す場所として使用する権利を貰ったからだ。だから、美晴は気分が乗らないときには合鍵を片手にここを訪れ、惰眠をむさぼるのを日常としている。今日も、そうして過ごしていた。さっき、起こされてしまうまでは。

 そんな場所であるから、彼女たち一年生がここにいることは非常に珍しいと言えた。話の内容も、内容だ。盗み聞きするほど興味はないが、出て行くにしても難しい。準備室の出入口は一応、二ヶ所ある。実験室に続くドアを開けるか、直接廊下に出るドアを開けるか。しかし、後者はこの魔窟を埋めつくす物品で塞がれてしまっている。これらを物音ひとつ立てずに移動させて、ここを後にするというのは――ほぼ不可能だし、そこまでの労力をかけたくもない。

 仕方ない。あちらが出ていくまで待つしかないか。美晴はため息をついて、腕時計に目をやった。針が示す時刻は思った通り、放課後の時間帯だ。五限が自習で、六限は数学だった。出席するつもりでいたが、うっかり寝過ごしてしまったらしい。ぽりぽりと頭を掻きながら、頭元だった場所に手を伸ばした。眼鏡をかけて、欠伸を噛みころす。――と、それまで黙ったままだった彼女の声が聞こえてきた。

「……悪いけど、あなたのこと、好きじゃないから」

 ぼそりと告げられた言葉からは、面倒くさいという感情がありありと感じ取れて、美晴は苦笑した。身に覚えのある感情だ。オブラートになんて包まない、容赦のない、ヒトの心を突き刺すようなそれ。少し前の自分自身を思い出した。そして、同時に理解もした。噂もまた、真実のようだと。

 あからさまな拒絶の言葉を突きつけられて――さて、相手はどう出るのか。美晴は深く腰を掛け直して、ドアの外へ意識を向けた。悪趣味だという自覚はあるが、他にやることがないのだから仕方ない。今、現場に踏み込んで邪魔をするよりはマシだろう。



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