falsao 2
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 盗み聞きした会話から、彼女はやはり自分と同類なのだということを知った。



「――付き合ってくんない?」

 ぱちりと目が覚めて聞こえたのは、知らない少年の声だった。聞こえたのは、きちんと閉まりきっていない扉の向こう側からだ。眠りから呼び起こされて、やや不機嫌な面持ちで、美晴はゆっくりと起き上がった。手をついた革張りの古いソファーが、音を立てて軋んだ。

 ぼんやりとしたまま、美晴は室内に視線を巡らせた。地学準備室――その狭い室内の中央に、美晴の座っているソファーは鎮座していた。その周囲にはありとあらゆる物が雑然と置かれている。天体望遠鏡に双眼鏡に化石標本。すぐ側にある机には分厚い専門書と、プリントの山。部屋の片隅には何故か、寝袋とオフシーズンを迎えているはずのコタツが立て掛けてある姿が見えた。天文部が野外での観測に使用しているものらしいが、寝袋はともかく、コタツが一体いつ何処で活躍しているのか。想像がつかなくて、美晴は何となく首を傾げた。――と、そこにもう一度、先刻の少年の声が聞こえてきた。

「神原、誰とも付き合ってないって聞いたからさ。だから、俺とどう?」

 明るくあっけらかんとした、聞きようによっては能天気とも思われる口調と科白。その中に、ここ最近の間で引っ掛かった名前を耳にして、美晴は思わず身動いだ。

 ――神原勇樹。

 外の様子に、耳をそばだてながら思い出す。数日前に学食で初めて目にした、彼女の姿。何やら興奮したように箸を皿に突き立てて、友人に諌められていた。決して長くはない昼休みの間に、苛立ってみたり、しょげてみたり――とにかく目まぐるしく表情が変わる、何処にでもいるような少女だったと思う。側にいたのが同性の友人だったからなのだろう。話に聞いたほど、刺々しい印象は受けなかった。

 帰り際に目が合ったので、物は試しと笑いかけてみたところ――若干、訝しむような表情をしながらも、彼女は会釈を返してきた。何だ。意外とフツーじゃないか。男だったら誰彼構わず警戒しているわけじゃないという、大亮たちの説明通りの人物のようだ。そう思って――でも、それだけだった。そうして、今の今まで忘れていたのだが。

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