falsao 1
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「話のタネになると思って拝借してきたんだよ。今年の一年、レベル高いって評判だからー」

「お前……このクソ忙しいときに」

 何を考えてるんだ、とずれた眼鏡を押さえながら美晴は呻いた。傍らで雄太が「うんうん」と頷く気配がする。

「早良に見つかったら、また怒られるんじゃないのか?」

 最愛の彼女の名前を出しても、陽一はどこ吹く風といった感じで、ますます笑みを深めてみせる。

「だから、居ないところで話してるんでしょ? 愛実さん、今日は家の用事で先に帰っちゃったしね」

「あんだけ美人の彼女がいて、どうしてこの手の話題でここまで盛り上がれるんですか……」

 まったく理解出来ないと言った表情で、雄太がぼやく。確かに、と美晴も思う。陽一は普段から、恋人である早良愛実に対する思いの丈を公言してはばからない。にもかかわらず、こういう話題で嬉々として盛り上がってみせたりもする。愛実がいい顔をしないのを、ちゃんと分かっていてだ。やきもちを妬かせたいというのが、その最たる理由なのだろうが――後で機嫌を治すのに奔走している姿を見る立場としては、やっぱり理解し難い。

 美晴と雄太が揃って胡乱な眼差しを向けると、陽一は『分かってないな』とばかりにかぶりを振ってみせた。

「美しいもの、可愛いものを愛でるのは、別に悪いことじゃないでしょう。あくまでも観賞用だよ。それ以上でも、それ以下でもないって。ねぇ、大亮くん?」

 そこで同意を求められ、大亮は軽く頷いた。

「そうですよ。このくらいのこと、みんなやってるんだし。付き合い、付き合い」

「だから、そういうのは暇なときにやってくれっての!」

 朗らかに言う大亮に、顔をしかめる雄太。元が真面目な性分なのか、いつもながら苦労が絶えないようだ。美晴はこっそり苦笑い、表面上は冷静に告げた。

「まぁ、何の話で盛り上がってくれてもいいんだけどね。仕事さえしてくれれば。それとも、今日の仕事はないのかな? だったら、俺はさっさと帰らせてもらおうか」

「うわ! 待って下さい! あります、仕事!」

 くるりと踵を返そうとしたら、大亮に慌てふためいた声で呼び止められた。こちらが動きを止めると、いそいそとプリントの束を持ってやってくる。

「すみません……これの確認、お願いします」

「ハイハイ」

 先程までとは打って変わり、表情を少し引き締めて頭を下げてくる後輩に、美晴は頷いてからプリントを受け取ろうとして――、その手に写真を持ったままだったことに気づく。

「ちゃんと老師に返しとけよ」

 プリントと交換する形で、美晴は大亮に写真を手渡した。――と、そのとき横から能天気な声が飛んできた。陽一だ。



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