無自覚症候群 2
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 会長が言うことには。

『付き合ってるんじゃないの、二人』

 その付き合いが幼なじみとしてのものではないということは、そちら方面に疎いと言われているわたしにだって見当はついた。初めてきかれたっていう訳でもなかったし。だからわたしは穏やかに、否定の言葉を口にした。

『ああ。まだ未満なのか』

 それにすぐさま返される言葉。その意味をはかりかねて、わたしは首を傾げた。

『好きなんじゃないの?』

 好き、だけど。

 求められている意味は違うんだろう。

 だからわたしはもう一度、否定の言葉を口にした。

 会長はそんなわたしを面白そうに見つめると、にっこりと笑った。

『じゃあさ、試しに俺と付き合ってみない?』



「……で、何て答えたわけ?」

 夕日の差し込むホール前のソファー。わたしはカフェオレ、紗耶はミルクティーをそれぞれ手にして腰掛ける。

 学食の自販機で飲み物を買ってから、わたしと紗耶はここに来た。道々、生徒会室であった事を話しながら。

 二階のフロアにあるここは、わたし達のお気に入りの場所だ。下校して行く生徒の後ろ姿が窓ガラス越しに見える。それをぼんやりと眺めながら、わたしは紗耶の問いに淡々と答えた。

「試しに付き合おうと思う程、会長に興味がないので丁重にお断りしますって」

「容赦ないわねえ」

 呆れたように紗耶が言う。そんな彼女を横目で見つつ、わたしは無言でカフェオレを口にした。

 ……甘いなあ。

 ふぅ、と息をつくわたしに紗耶はニヤリと笑って問うてくる。

「もったいないとか思わなかった?」

「何が?」

 もったいないというなら、紗耶の今の表情だろう。男子に人気のある綺麗な顔が、まるで悪役のような笑みに染まっている。そんなわたしの思いをよそに、彼女はニヤニヤしながら続ける。

「曲者らしいとは噂だけど、人気あるでしょ? 沢渡会長」

 らしい、んじゃなくて曲者そのものだと思うよ。

 わたしはそう思いつつ、溜息混じりに口を開いた。

「だって本気じゃなかったもん」

 本気だったらあんな答え方された後、お腹を抱えて大爆笑なんてしないはずだ。

 わたしがそう言うと、ふぅんと紗耶は呟いて窓の外を見た。わたしもつられて再びそちらを見やる。

 放課後――部活が始まってからだいぶ時間が経っているせいか、下校する生徒の姿はほとんどない。時折ジャージ姿の生徒たちが行き交うのが見られる程度だ。わたしは無言で外を見続ける紗耶の顔に視線を移した。

 何とも言えない無表情。

 わりと喜怒哀楽の激しい彼女にしては珍しく、どんな感情も読み取れない。

 どうしたんだろ?

 普段とは違った雰囲気を醸し出す彼女に何となく居心地が悪くなって、わたしは残りのカフェオレを一気にあおった。幸い、ぬるくなっていたから問題ない。



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