参 お月さまとわたし
しおりを挟むしおりから読む目次へ








 見た目も中身もごく平凡で、ごくごく平均点なわたし。そのわたしに唯一非凡なところがあるとすれば、それは他人とは違う感覚を持っていることだろう。

 普通の人には見えないものを捉え、聞こえない声を聞く。いわゆる幽霊とか、あやかしと呼ばれる存在を感じ取る感覚――俗に言う『霊感』が人並み外れて強いのだ。

 とはいえ、幼い頃から超が付くほどの怖がりだったわたし。はっきり言って、その力がある事実は不快以外の何物でもなかった。見たくなくても見えてしまう、聞きたくなくても聞こえてしまう――変なふうに思われたくないから、そういうつらさを打ち明けられる人も、周りにはいなくて。

 普通の人とは違う世界で生きている。その生活が嫌で嫌で仕方なかった。けれど、その思いは或る出逢いによって、ゆっくりと変化していった。

 厄介事だらけの日常を楽しく、そしてほんの少し愛しく思えるようになった。それはきっと『彼』という存在のおかげ。



*  *  *



 見上げた夜空には、無数の雲が棚引いていた。その内のひとつが風に流されて、月を覆い隠す。

 満ちた月からの柔らかな光が遮られ、私は立ちすくんだ。しかし、すぐに気を取り直して、再び歩を進める。木の根に足を取られないよう、注意深く、茂みを掻き分けながら。

 此処を行った先に、川がある。彦はいつも其処にいる。時に独りで、時に『人ではないもの』を伴って。

 開けた視界に彼らしき影が見えた。無造作に座り込んだ彦の隣には、到底、人間とは違う姿をしたあやかしが一匹、並んでいる。普通の人なら悲鳴をあげて逃げ出してしまうかもしれないその光景も、私にとっては何てことない日常的なもの。

 だから、奇異に思われるのだろう。親からも、赤の他人からも。

 それでも、生まれ持ったこの感覚(ちから)を疎む気持ちは欠片もなかった。そう思えるようになったのは、やはり彦のおかげだろう。

 途切れた雲間から、月の光が差し込んでくる。青白い光が辺りを照らして、彦の姿を浮かび上がらせた。私は急いで、そちらに駆け寄る。

 気配を察したのだろう。彼の傍らにいたあやかしがこちらを振り向き、微笑んだ。一見不気味にも見えるが、慣れれば愛嬌のある可愛らしい表情に、私の頬は自然と緩む。

 川原の小石に躓かぬよう、慎重に進む。すると今度は彦が、こちらを振り返ってくれた。それと同時に聞こえる声。

「……来たか」

 彦はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、私に向けてその手を伸ばした。月に背を向けた形になって、その表情は影になり、窺うことはできない。

 私は少しでも早く彼に近づきたくて、足を早めた。すると彦は『転ぶなよ』と苦笑する。それから呼んだ。私の名前を。

 心地好く響く、低く穏やかな声で――。



*  *  *



- 18 -

[*前] | [次#]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -