間話1 宮中の花 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「……私は他人を利用してばかりね」 きっと不本意だったに違いないだろうに、結局依頼を引き受けてくれた幼なじみを思い、リラは表情を曇らせた。小さな頃の我が儘とは比較にならない重さのそれを無理矢理担わされて、彼は自分のことをどう思っただろうか。彼の傷口を広げるばかりの自分のことをどう思ったのだろう。 過剰な期待を抱くつもりはない。再び、彼にこの王宮に戻ってきて欲しいとは思わない。けれど、失望されるのはやはり怖いのだ。――遠く離れた今でもまだ、想っている人だから。 それでも、リラは立ち止まらない。誰に疎まれても、失望されても。いつまでも続くと思っていた、穏やかな日々を壊されたあの日に決めたことをやり遂げなければならないのだから。 ――私は誰の代わりでもないけれど。 誰の代わりにもなれないけれど。生かされた自分にしか、成し得ないことがある限りは。 歩みを止めない。振り返らない。そして、背負い続けていくのだ。 過去に生み出された傷を。そして、巻き込んだ人々の痛みすらも。 ――だから、絶対に。 「……シーナに手出しはさせないわ」 細くしなやかな手を固く握りしめて、リラは静かにそう呟いた。 間話1『宮中の花』了 |