間話1 宮中の花
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 そんな間柄になったからこそ、シーナの抱える傷がどれほど深いものなのか、リラは正しく理解しているつもりだ。【剣】として起つと決めてからずっと拒み続けてきた存在を、一度くらいの襲撃で受け入れられるほどシーナの思考は柔軟ではないし、それほど彼女の心は強くもない。シーナが何より怖れているのは、他人が彼女のために犠牲になることなのだから。

 だから、おそらくは――アレスやランディの積んできた経験やその強さを認めたということなのだろう。二人とも剣の腕はシーナよりも上だし、旅慣れている。魔物との戦いにも、人間相手の戦いにも怯むことはない。それを生業として生きてきた人間だ。いくらシーナが覚悟を決めて、この旅にのぞんでいるのだとしても、いざというときにはやはり経験の差が出るだろうから。護衛というよりは、案内人のような意味合いで受け入れたのだと思う。

「……だけど、彼らが護衛として働くときは必ず来るのよ」

 呟いて、すっと両目を細める。旅が始まればすぐに、シーナを狙う影が動き出す。そのことも報告書にはあがっていて、リラは事態の厄介さを思って、盛大に顔をしかめた。そして、紙面に綴られたある人物の名前を指で弾く。

「――オルリウス=ラズ=ディスタール」

 苦い口調で呟いたその名前は、王都で暮らしていたある貴族のものだ。代々文官を輩出して、フォルトナの肉体の管理に携わっていた名家だが、【剣】に対する考えの相違から自発的に王都を離れていった――その家の現当主。そして、シーナの旅を妨害しようと企んでいる中心人物でもある。

 どこで、どのように仕掛けてくるのかはまだ分からない。リラが今掴んでいる情報によれば、彼は貴族たちの間でも仲間を募り、密かに傭兵を雇い入れているらしい。その数は決して少なくはなく――リラや近臣の部下たちは警戒を強めているところだ。その辺りのことはマーサに預けた手紙で知らせているから、ランディが上手く立ち回ってくれるだろうけれど。

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