間話1 宮中の花 しおりを挟むしおりから読む目次へ あの頃はまだ、心に負った傷を上手く昇華するには幼すぎたのだろう。リラにしろ、シーナにしろ。そして、ランディにしろ。やるべき仕事を淡々とこなして年月を重ねる中で、リラは過去を思い返しては、そう考えるようになった。 時間の流れは残酷で、それでいて優しい。未だに胸の内で燻っている思いが消えることはないが、それでもその形は少しずつ変わってきている。刹那的だったあの頃に比べて、もっと多くのものを見通せるようになってきたからだろうか。あの頃より少しだけ、凪いだ気持ちでいられる時間が増えた。 それは多分、フォルトナを滅ぼして全てが終わるわけではないことに気づけたからだ。当たり前のことだがリラが女王である以上、国から魔物を排除して、それで仕事が終わるわけではない。民がいる限り、その平穏はリラが守り続けなければならないのだから。だから、何も終わらないのだ。どんなに憎い仇を討ったとしても。リラが歩くと決めた道は、彼女が死ぬまで終わらない。 だけど、シーナは。 「……考えているのかしら、あの子は」 フォルトナを滅ぼすために育てられた少女は、その存在を倒した後にどんな道を見出だしているのだろうか。ぽつりとひとりごちて、リラは手元に残った書類に目を落とした。先程、ダンテが置いていった【剣】とその護衛たちに関する報告書だ。 分かってはいたことだが、シーナはやはり護衛の存在を拒んだらしい。だが、それで揉めていたところに魔物が現れ、シーナ自身が魔物に狙われていることが判明したため、どうにか護衛の存在を受け入れた――と報告書にはあるのだが。 「完全に受け入れたわけではないでしょうね……」 半ば無理矢理巻き込んだとはいえ、五年近くに及ぶ付き合いだ。始めこそ、お互いにいい印象を抱いていなかったが、今は違う。リラの再三の語り掛けに発奮したシーナは、立ち直ってみれば無造作でさばさばとした気性の持ち主で、いつしかリラにとって気の置けない友人となっていたのだから。そして、逆にシーナもこちらに気を許してくれている。 |