1 リウムの歌姫
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 少女が最初に演奏したのは、明るくテンポの速い曲だった。ランディも何度か耳にしたことのある、わりと有名な歌だ。

 それを彼女は陽気に歌い上げていく――聴く者すべてを巻き込んで。

 盛り上がっていく周囲の熱気を感じながら、ランディは瞳を閉じた。つま先でリズムを取り、少女の声とリュートの音に身を委ねる。それは、ひどく心地よい感覚だった。

 一曲目を終えて、客の賛辞に応えながら、少女は次の曲を奏で出す。先程よりゆっくりとした、少し寂しげな曲だ。それはランディも知らないもので――静かな音色に重なるその歌詞に、耳を澄ませた。

 そして、唐突に泣きたくなった。

 それは、希求する歌だった。ただ切実に、帰る場所を求める歌だった。それを捨てて歩んできたランディにとっては、耳にするのがつらくなるような――そんな、歌。

 初めに歌ったものとは明らかに雰囲気が違う、その曲を少女は静かに歌った。囁くような、語りかけるような――さっきのはつらつとした声とは違う、深みのある声で。

 手拍子は既に止んでいた。皆、静かに聞き入っている。その中で、ランディはぼんやりと思った。

 あの日、自分が背を向けてしまった場所のことを。そして、そこに残してきてしまった人のことを――。


*  *  *



 気がつくと、いつの間にか演奏は終わっていた。目を開けて周りを見回してみれば、客たちはそれぞれに食事を再開しているところで、少女の姿も消えてしまっていた。

 ふと目を近くに戻すと、卓上に先程注文した酒が置かれていた。どうやら運ばれたことにも気づけないほどに、聞き入ってしまっていたようだ。何となく、気恥ずかしい気分になる。だが、そうなっていたのはランディだけではないようで。

「……アレス?」

 向かいに座っている、どこかぼんやりとした様子のアレスにランディは呼び掛けた。アレスはまだ少女が居た席に顔を向けている。珍しいこともあるものだ。この青年の心ここに在らずといった表情を目にしたのは、はじめてのことかもしれない。

 同じように少女の歌に聞き入っていたことは棚上げして、ランディは口許をゆるめた。

「ずいぶん気に入ったみたいだな」

 からかうような響きを持った科白に、アレスが顔を歪めてこちらを見た。ランディはにやにやと、笑みを湛えながら言う。

「何だったら、店の人間に頼んで紹介してもらうか? 朴念人のお前が女に興味を持つなんて、珍しいことだからなぁ」

「あなたと一緒にしないでくれ」

 憮然としてアレスが返す。その態度に、ランディは大きく舌を出した。

「ぶわぁー―――っか! それこそ一緒にすんなっての。俺の好みはあんなぺったんこなガキじゃねぇよ。やっぱ女は出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んでねぇとな。あんなちんちくりんの子どもを相手にするほど、困ってねぇっての」

 多少酔いが回ってきたのか、すらすらと言葉が出てくる。別に少女が悪いわけではないというのに、こんな科白が出てくる辺り――彼女に惹きつけられたのが、思いの外、不本意だったらしい。我ながら子どもじみていると、ランディは内心で苦笑した。ちょうど、そこへ。

「……ちんちくりんで、悪かったですね」

 ぼそりと、手加減なしに冷たい声が降ってきた。正面に見えるアレスの表情が固まった。ランディは彼の視線をたどって、おそるおそる後ろを振り返る。





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