1 リウムの歌姫
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「そうかとも思ったんだが」

 続いた言葉にランディは瞬いた。

「どう見ても、女性だろう?」

「……女だな」

 何が言いたいのか、よく判らない。ランディは目線だけで疑問符を飛ばした。アレスが慌てたように付け加える。

「いや、俺が会ったのは確か男だったと思っていたから」

「何だ、そりゃ」

 手にした酒瓶を軽く振って――もう空だということに気づいて、ランディは顔をしかめた。そして、側を通りかかった店の主人を呼び止める。

「親父さん、これ旨かったぜ。同じやつ、もう一本頼むよ」

「かしこまりました」

 人の好さそうな顔を更に綻ばせながら、主人が請け負った。そのまま踵を返そうとするところを、今度はアレスが呼び止める。

「ご主人、すまないが」

「はい?」

 愛想良く振り向く主人にアレスが訊ねた。

「彼女は、これから何を?」

 そう言って、例の少女を指し示す。ランディが再び目を向けたそこでは、少女が椅子に腰かけてリュートの弦を調節しているところだった。どうやら演奏を始めるらしい。

 その少女に目をやって、主人は少し誇らしげな様子で話し出した。

「あの娘はウチの店専属の歌姫なんですよ」

「歌……」

「姫……」

 ランディたちは呆けたように呟いた。そして少女と、自分たちがよく知る歌姫像とを照らし合わせてみる。その結果。

「まだ子供じゃねぇか」

 ランディはそう言うと、顎先で少女を示した。

「酒場の歌姫っていうには色気が足りないんじゃねぇの?」

 客の男たちに囲まれて微笑む少女は確かに美しい容姿をしていると思うが、どう見ても15・6歳の子どもにしか見えない。纏う空気が健全すぎて、こうした酒場にはそぐわないような気がするのだ。ランディがそう指摘すると、主人は苦笑しながら口を開く。

「まぁ、確かにおっしゃることも判りますがね。でも、あの娘の歌声を聞いたら考えも変わりますよ」

「そんなに素晴らしい歌い手なんですか」

 アレスが少女に目をやったまま、静かに問う。主人は男二人を見比べ、浮かべていた笑みを深めた。

「まずは聴いてみて下さい、旅の方。じきに始まりますから」

 そして主人は『ご注文の酒を用意してきますね』と言い置いて、厨房へと向かった。すると、その瞬間に合わせたかのように。

 少女のいるほうから、強く弦をかき鳴らす音が聴こえてきた。それと同時に始まる手拍子。その大きさに負けないくらいの豊かな声量。

 へぇ、とランディは口許に弧を描いた。

 ――なかなかやるじゃねぇの。

 一度、弦を鳴らしただけで少女はこの場の空気を掴んでしまった。そして、伸びやかに響く歌声が更に客の心を捕らえていく。





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