7 剣の過去
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「――貴方の懸念も、もっともだと思いますわ」

 ランディに向かって、マーサは柔らかく笑んでみせた。けれど、話す声には力がこめられている。一つの反論も許さないような力強さをもって、彼女は言い切った。

「ですが、シーナは人間です。普通の、よく笑う、我が儘で強情な私たちの愛しい娘です。私たちにとっては、それが真実ですわ」

「彼女の力が何一つ、解明できていないのにか?」

 厳しい眼差しはそのままに、ランディが問うてくる。マーサは自信たっぷりに頷いてみせた。

「ええ。……言っておきますが、ランディ様。これらの事情は全て、陛下もご存知ですのよ」

「陛下、が……?」

 意味ありげに微笑んだマーサの言葉に、ランディがたじろいだ。事実を確かめるように、こちらに顔を向けてくる。

「本当なのか」

「はい」

 ロディオは深く頷いた。そして、ゆっくりとした口調で続ける。

「陛下は全てを承知された上で、シーナに“剣”を託されました。シーナもその御心に、全力で応えようとしています」

 シーナの正体が何であれ、その気持ちに嘘偽りはない。ずっと近くで見守ってきたのだ。それは確信できる。

 だからロディオは今度こそ、自信を持って告げた。シーナの親として、揺るぎのない思いで。

「これが、我々の目から見たシーナの過去です。それを聞いて、貴殿方がどうされるのかは貴殿方にお任せします。今回の依頼を断わるのであれば、そのように我々から陛下へお伝えしましょう。ただ……」

 言葉を切り、二人を見据える。彼らもまた黙って、こちらを見返した。

「シーナがこの世界の人間でないにもかかわらず、この国の者は彼女に“剣”の責を担わせた。何の選択の余地もなく、本来なら余所者の彼女を“剣”にしたのは我々……この地に生きる人間です。疑いを向け、彼女の道の妨げとなるのであれば、代わりに“剣”の担い手となる――そのお覚悟をなさって下さい」

 重々しく告げると、二人の若者はそれぞれに神妙な表情を俯けた。そして各々が考える。ロディオはその様子を眺めながら、胸裏で思った。



 ――それでも、断らないのだろう。この二人は、きっと。



 どんなに納得がいかなくても――アレスにとっては父親が、ランディにとっては女王が、それぞれをシーナの元に引き止める。逃れられない鎖のように、絡め取るのだ。

 それが果たしてシーナにとって良いことなのかは――ロディオにはまだ判らないけれども。

 だが、今のシーナには彼らの手が必要なのだ。それだけは、はっきりと確信していた。



第七話『剣の過去』了



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