7 剣の過去
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 娘は――シーナは全身に負っていた怪我のせいか、発見されてから三日ほど眠り続けた。死んだように、昏々と。こびりついていた血を拭ってやって、現れた顔色は雪のように白く、冷たくて――自力で呼吸をしているのが不思議なほどの状態だった。

 やがて、シーナが意識を取り戻した。これでやっと、彼女の身元を探ることが出来る。何故“フォルトナの剣”を所持していたのかが判る――そう思って、ロディオを始め、彼女の保護にあたった人間たちは皆一様に安堵した。だが、それも束の間のことだった。

「……話を聞く以前の問題だったんですよ」

「――どういうことです?」

 先刻、険悪な雰囲気になったのを忘れたかのように――その口調を慇懃なものに改めて、ランディが訊ねてきた。ロディオは彼を真っ直ぐに見返して、答えを口にする。

「言葉が通じなかったんです」

「は……」

 ランディが目を瞬かせた。呆気に取られて――だが、すぐに気を取り直すようにして口を開く。

「怪我したときの衝撃で、喋れなくなったとかじゃなく?」

「違います」

 ロディオは静かに否定した。

「シーナの話した言葉は、我々の中の誰一人として聞いたことのないものでした。そして我々の言葉も、シーナには理解出来なかった」

 今でこそ、きちんと会話が成り立つようになったが、その当時は苦労の連続だった。言葉だけではない。文字も互いに理解出来なくて、筆談も不可能だった。身振り手振りでどうにか意思の疎通を図ったものの、余程つらいことがあったのか――幼かったシーナは塞ぎこんでおり、向かい合うことすらままならなかったのだ。



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