7 剣の過去
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 いっそ知ってしまえば、彼らは離れてくれるんじゃないだろうか。こんな厄介な依頼は御免だと、命が惜しいと言って、断ってくれるんじゃないだろうか。疲弊した思考の中で、椎菜はそんなふうに思う。そして自分は当初の予定通り、一人でフォルトナの元へ向かうのだ。“剣”の責務を果たすために。それは決して簡単なことではないけれど――また、あの魔物と対峙して危険な目に遭うのだろうけれど。

 でも、誰かと一緒にいるよりましだと思った。その誰かが傷つくことに、誰かを失うことに怯えているより、ずっと。

 だから椎菜は養母に告げた。小さな声で、でもはっきりと。

「――代わりに、話して」

 本当は自分が話すのが一番いいのだろう。けれど、それが出来るほどまだ気持ちは安定していない。どうしても、アレスたちに向かい合うだけの気力が湧いてこない。話をすれば、きっと彼らの自分を見る目は変わってしまうだろう。その目に耐えられる自信が、今はない。

 たった一時でも『好意』に準ずる気持ちを向けてくれた彼らに、奇異に思われたくなかった。まだ、その変化を目の当たりにしたくなかった。いずれ、立ち向かわなければならないものだとしても。

 傍らでマーサが頷き、立ち上がる気配がする。彼女は黙したまま、静かに部屋を後にした。その姿を見送って、椎菜は祈るように思った。

 ――せめて、今だけは。

 何を言われても、何を思われても、何も感じないでいられるように。揺るがないでいられるように。一人で、ちゃんと立てるようになるまで。



 ――もう少しだけ、時間をください。



*  *  *



 その娘はまさに突然、現れたのだ。砂漠にある遺跡の最奥に開いた、【穴】の中から。

【穴】自体が魔物の使うそれとよく似ていたため、その場に居合わせた誰もが最初、彼女を魔物の化身か何かだと思った。だが、彼女が抱いていたものが何であるかに気づき――彼女はすぐに保護されることになった。

 傷だらけの娘が抱えていたもの。それが文献でのみ存在を知られていた“フォルトナの剣”だったから。娘はそれを、小さな身体で縋りつくように抱きしめて眠っていた。

 それが十一年前の話だと、ロディオは語った。神妙な面持ちでこちらを見つめる、二人の若者に。

 魔物との戦いを終えて、力を使い尽くしたシーナが眠りから目覚めた、その夜。未だ、人前に姿を見せられない娘に代わって、ロディオは彼女の過去の話を聞かせていた。シーナを連れて戻ってきてから、ずっと険しい表情をしたままのランディと、少し沈んだ様子のアレスに向かって。

 窓も扉も閉めきられた応接間の中には、静寂が漂っている。隣に座った妻がカップを上げ下げする音がやけに響いて、ひどく息苦しかった。しかし、それも当然のことだと思った。これから彼らに話すことは、決して楽しいものではないのだから。けれど娘から任された以上、逃げ出すわけにも行かず、ロディオは出来るだけ淡々と回想を続けた。



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