1 リウムの歌姫
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 灰がかった青という色合いの彼の瞳は不機嫌そうに細められ、まとう雰囲気が少々棘のあるものになったせいか、陽に焼けた精悍な顔つきがより引き締まって見える。よく鍛えられた体躯と相まって、このまま一人で置き去りにしたならば、そのスジの女が放っておかないだろう。ランディも女受けしないわけではないのだが、黙っていてもあちらが寄って来てくれるという点では、アレスが羨ましくなることもある。もっともアレス本人は、あまりそういう遊びが得意ではない。というか、食べることと剣技以外のことに興味を示さない朴念人であるから、実際にコナを掛けられても適当にかわしてしまうのだけど。

 ――宝の持ち腐れっていうのは、こういうことかね。

 あらためて旅の相棒を観察しつつ、ランディは口を開いた。

「だいたい、その依頼人ってお前の知り合いなんだろ? だったらお前が話聞いてくりゃいいんじゃねぇのか?」

「俺だってちゃんとした面識があるわけじゃないんだ。それに養父(ちち)からの依頼を受けたのは、あなたも同じだろう。同席する義務があるんじゃないか?」

「……まぁ、そうだけどな」

 淡々と返してきたアレスに、ランディは不承不承ながら頷いた。

 ランディ達がリウムに訪れたのは、遺跡が目当てではない。アレスの養父の依頼を受けたため、この街にやって来たのだ。リウムに住む古くからの友人の力になって欲しいという、依頼を果たすために。

 元々、ランディもアレスもそれぞれに大陸中を旅しながら、魔物退治や隊商の警護などの仕事――いわゆる冒険者稼業を営んでいた。その仕事の最中に何度か顔を合わせることがあり、歳が近いこともあって気安く話す仲になったのだ。特にここ数年は、こうして同じ仕事に携わることも多くあって。

 そんな縁があり、今回はアレスの持ってきた養父からの依頼とやらを受けることになったのだが――その大元の依頼人に会うにあたって、ランディは少々引っ掛かりを感じていたのだった。

 それを解消すべく、ランディはおずおずと口を開く。

「でもよ、その依頼人ってお前の実の親父さんの知り合いでもあるんだろ? だったらお前自身、色々訊(き)きたい話もあるだろうに……俺が居たんじゃ、話しにくいんじゃねぇのか?」

 リウムで彼らを待っている依頼人は、アレスの実父の友人でもあったらしい。しかも、彼の人はまだアレスが幼い頃にこの近くで亡くなったのだと――ここに向かう道中でアレス自身に聞いたばかりだった。だからランディとしては、何となく遠慮する気分になっていたのだ。

 自分自身、あまり他人に過去に知られたいと思わないから。だから普段の、飄々とした自分らしくない態度だとは思っても、確認せずにはいられなかった。

 しかし、当のアレスは僅かに片眉を上げて、面白がるような口調で言った。

「まさか、あなたにそんなふうに気を使われるとは思わなかったな」

「お前なぁ……」

 今度はランディが頬杖をついて、顔を背ける。アレスが笑いを堪える気配がして、ランディはくしゃりと前髪を掻き上げた。





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