6 執着
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 確かに力強いものではあった。だが、それ以上にグレイの動きは静かなものだった。日頃の豪快な印象とは違った、鋭くて、滑らかな動作。吸い込まれそうな動きに、幼い椎菜の目は釘付けになった。そのときに思ったのだ。どうせ剣を振るうのであれば、彼のようになりたいと。それはとても高く高く、遠い目標ではあったけれど。

 ずっと思っていた。いつかグレイの剣に届けばいいと。今は亡いあの人の剣を自分が生かしていきたいと――そう、思っていた。それが。




「――なん、で?」

 茫然と、椎菜は呟いた。目の前で繰り広げられている光景から、目が離せない。それは、まるであのときと同じように。

 はじめてグレイが剣を振るうのを見た、あのときと同じように。


*  *  *


 ランディを伴って椎菜が墓地に戻ると、そこにはアレスの姿があった。魔物と距離を取り、呼吸を整えている姿を、木の陰から覗き見て――椎菜は心の底から安堵した。良かった、間に合った。見たところ、傷らしい傷も負っていないようだ。アレスの強さは折り紙つきだ――そう言っていたランディの言葉通りだった。

 安心して、身体から力が抜けそうになって――椎菜は慌てて気を引き締めた。状況は何も変わっていない。アレスは無事だったが、魔物もほとんど傷ついていないようだった。椎菜が立ち去る前と同様に、愉悦を含んだ目をしてアレスと対峙している。

(――っ)

 一瞬だけ、椎菜の中に躊躇いが生まれる。魔物の、あの狂ったような色の目に映ること。あの魔物の視界に入ること――それが今更ながら、とてつもなく恐ろしいことに感じられた。魔物と戦う覚悟はいつだってしていたけど。でも、それはあの魔物に対してではない。グレイや他の大勢の人の命を奪った、あの魔物に対してではなかったから。



 ――あのとき、確かに魔物は消えたはずなのに。

 ――あたしが開いた【扉】の中に。



 椎菜は剣の柄をぐっと握り締めた。何故今頃になって、あの魔物が再び椎菜の前に現れたのか。あの襲撃から――九年だ。九年もの歳月が経ったというのに、何故、今なのだろう。

 九年前のあのとき、魔物はかなりの深手を負っていた。グレイがその身を賭して、傷を負わせたのだ。だが止めを刺すことはかなわず、グレイは魔物に殺されたはずだった。多分、自分はそれでひどく取り乱して――。

 そのとき“剣”が目覚めたのだと――後から、そう教えてくれたのはロディオだった。“剣”を中心にして、大きな力の渦が生じたのだと。それが巨大な“穴”になって、魔物を飲み込んだのだと。椎菜から少し離れた場所で、他の魔物に襲われて倒れていたロディオには、朦朧とした意識の中でそう見えたらしい。

 その瞬間のことを、やはり椎菜ははっきりとは覚えていなかった。ただ、今も記憶に残っているのは血を吐くような、自身の叫び。



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