5 覚悟 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「それが出来ないなら、娘から剣を取り上げて閉じ込めておくんだな。半端な覚悟も、半端な忠誠心も、――結局は女王陛下の往く道の妨げになるだけだ」 冷徹に、突き放すようにランディはそう告げた。シーナが不安気な表情で、項垂れてしまったロディオを見つめている。ランディは何も言わなかった。黙したまま、シーナの腕を掴む。 「え……?」 「行くぞ」 短く言って、ランディはシーナを引きずって歩き出した。シーナは困惑した様子で、取り残される養父とランディとに視線を巡らす。その表情に、ロディオと言い合っていたときの剣呑さは見られなかった。 「ちょっと、」 「これ以上は待てない」 何事か言い募ろうとするシーナの声を、ランディは鋭く遮った。シーナはぐっと言葉に詰まり、大きくかぶりを振る。そして、自分の意思でしっかりと歩き出す。 置かれている状況を思い出したのだろう――その表情に、もう迷いはなかった。 そのことに気づいたランディは彼女の腕を放す。そして同時に駆け出そうとした刹那、シーナが口を開いた。 「あなたは、何者なんだ?」 「ただの流れの剣士」 「嘘だ」 端的に返した答えは、にべもなく切り捨てられた。横目で見下ろせば、眉間に深い皺を刻んだ少女がこちらを見上げている。 ――さすがに、誤魔化せるもんでもないか。 あからさまに態度を変えたのは、自分だ。不審に思われるのは仕方のないことだろう。元より、知られていることも覚悟していたのだ。この仕事の依頼人が女王で、内容が“剣”の護衛ということであれば、自分の素性を調べていないはずがない。調べて――そして、ランディが女王に害を為す人間では有り得ないと確信したからこそ、ロディオたちはこの仕事を自分の元に持ってきたのだろうから。 シーナを納得させる程度の説明をするくらいなら、簡単だ。何も全てを話す必要はない。だから、そう長い時間は掛からないと思う。 だが、今はその時間すら惜しかった。 「後で話してやる」 「……判った」 告げた言葉に不満そうに口許を歪めたが、やはり状況を思い出したのだろう。シーナは吐息混じりに言って、今度こそ先導するべく走り出す。ランディもまた渋い表情をしたまま、その背を追った。 途中、一瞬だけ後ろを振り返ってみた。だが、既にロディオの姿は見えなかった。きっと妻の元に行ったのだろう。そう思い、ランディは意識を切り替えて足を速めた。シーナを追い越すくらいの速度で急ぐ。 一人、魔物と戦っているはずの友の元へと。 第五話『覚悟』了 |