5 覚悟
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「ロディオ、ちょうど良かった!」

「魔物が現れたと聞いたが」

「そう、街外れの墓地に。今、アレスが一人で戦ってる。街の人にはここに来る途中に、避難するように伝えてきた。だから、そっちは平気だと思うけど……念のため“炎使い”を集めておいて欲しいんだ。万が一、魔物が街に入ってきても対処できるように」

「――お前はどうする?」

 険しい表情で、ロディオがシーナに訊ねた。しかしシーナは気にすることなく、あっさりと答えを返す。

「あたしはランディさんと一緒に行く。道案内、しないといけないし」

「駄目だ!」

 ぴしゃりと却下されて、シーナは瞬いた。側で経過を見守っていたランディも驚いて、目を瞠った。その二人の視線を無視して、ロディオが続ける。

「ランディ殿には私が同行する。お前はマーサと一緒に残りなさい」

「――何で?」

 傍らでシーナが低い声で問うた。その鋭い声音に、ランディはシーナの横顔に目をやって――思わず、口笛を吹く。

 ――なんて顔をすんだよ、この嬢ちゃん。

 シーナの面に浮かんだそれは、少なくとも親しい人間相手に向けるような表情ではなかった。獰猛で、凄絶で――とても年頃の娘が浮かべるようなものとは思えない。まるで獣のようだと思いつつ、ランディはシーナから少し距離を取った。それから二人のやり取りを見守る。

 シーナが眦を吊り上げ、押さえつけた声で言った。

「フォルトナを滅ぼしに行くのはよくて、何で魔物と戦うのはいけないんだ?」

「お前は“炎”が使えないだろう」

 だから行っても役に立てないと――ロディオは言外にそう告げる。だが、シーナは引き下がらなかった。勢いよくかぶりを振って、言い募る。

「そんなこと関係ない! あの魔物は、九年前にグレイを殺した奴だ! あのときと同じように、あたしを欲しがってる!」

 その言葉を聞いて、ランディは眉をひそめた。魔物が人間を欲しがる――? そんな話、初耳だ。だがロディオにとっては、そうではなかったのだろう。彼は口調を諭すようなものに変えて、シーナを宥める。

「だったら尚更だ。危険だと判っていて行かせられるわけが、」

「もしも!」

 シーナが大声で遮った。彼女はロディオを睨みあげながら、苦々しく告げる。

「もしもアレスが持ちこたえられなかったら、あいつはあたしの所に来る! 賭けたっていい! そのときにあたしが街の中にいたら、他の人たちはどうなる!? また巻き添えにするだけじゃないか!」

 少女の悲痛とも言える叫びに、ランディは目を眇める。激昂したシーナの瞳が一瞬だけ、揺らいだように見えた。そこでランディは察した。シーナが頑なに“護衛”を拒む理由(わけ)を。

 彼女もまた、大切な誰かの犠牲の上に生かされたのだ――九年前の襲撃で。



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