5 覚悟
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「どうした!?」

 走り寄って声をかけると、シーナがこちらに気づいた。目が合って、その表情に安堵の色が浮かぶ。彼女はそのまま、ランディの目の前に勢いよく飛び込んできた。勢いを殺しきれずよろける少女を、ランディは慌てて支える。

「おい――っ?」

「アレス、が」

 問いかけにシーナは呼吸を整えながら、ランディを見上げた。支えた腕を強い力で掴まれる。ランディは眉根を寄せて、話の続きを待った。

「アレスが!」

 縋るような目をして、シーナが言った。

「街外れの墓地に、魔物が現れて! アレスが一人で食い止めてる! あなたは“炎”が使えると聞いた! 一緒に来てくれ!」

「一人で?」

 落ち着けと宥めるように聞き返すと、シーナは大きく頷いた。それを見て、ランディは顔をしかめる。

「――あのバカが!」

 毒づいて、盛大に舌打ちをした。炎を使えない人間が一人で魔物と対峙するなど、無謀もいいところだ。いくらシーナを逃がすためだとはいえ――。

 そこまで考えて、ランディはシーナに問う。

「俺を呼びに来たってことは、あんたも“炎”は使えないんだな?」

「……ごめん」

「謝ることじゃねぇだろ」

 悔しげに視線を落としたシーナにそう言って、ランディは自分の腕からシーナの手を外す。それから、俯いたシーナの顔を覗き込んだ。

「数は?」

「一匹。狼みたいな格好の大きいやつ」

「一匹、ね」

 だったら、何とか持ちこたえられるだろう。魔物を相手にするのは、はじめてというわけではない。アレスなら、自分が行くまで耐えられるはずだ。

 焦る気持ちをどうにか押さえつけて、ランディはシーナに告げた。

「心配すんな。あいつの強さは折り紙つきだ。魔物とは、何度も戦ったことがあるんだからな。一人で倒せないからって、負けるわけじゃねえ」

「――うん」

「あんたが走ってきてくれたおかげで、俺があのバカを助けに行けるんだ。だから、大丈夫だ」

 そう言うと、シーナが弾かれたようにしてこちらを見上げた。向けられた双眸には、かすかに怯えの色が浮かんでいる。

「ほんとに……?」

 震える声で、訊ねてきた。

「ほんとに大丈夫……?」

「大丈夫だ」

 怪訝に思いながらも、ランディはシーナの黒い瞳を見つめて、言いきってやる。力強く、はっきりと。

「俺が“大丈夫”にしてやる――あんたは、そのために走ってきたんだろ?」

 そして、少女の細い肩を叩いて促した。

「俺は場所が分からねぇ。案内、頼めるな?」

「うん!」

 頷いて――こちらの目を見たシーナは落ち着きを取り戻していた。そして来た道を戻ろうと、足を踏み出す。ランディも、その後に続こうとした――そのとき。

「シーナ!」

 呼び止める声がして、シーナの足が止まった。少女が振り返り、ランディもそれに倣う。振り向いた先には、いつの間に戻っていたのか――ロディオの姿が在った。

 シーナが安心したように息をつく。



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