4 襲来
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 見上げたままの視線を逸らさずにいると、アレスがふと息を洩らした。張り巡らされた緊張の糸が、少し緩む。けれど椎菜は黙ったまま、彼が何か言うのを待った。突き刺すような眼差しは、そのままで。

 やがて、アレスが平淡な声で言った。

「どうしても護衛を拒むというなら……あなたの力を試させてもらってもいいか?」

「試す?」

 眉をひそめた椎菜に、アレスは大きく頷いた。

「あなたに下されたのは、王命だ。それもけっして失敗は許されない、この大陸にとっての最重要事項だろう? このまま護衛をつけずに王都に向かって、万が一何かあったときには、大陸中の人間が困ることになる。その可能性が少しでもあるなら、俺は見過ごせない」

 アレスはそう言うと、腰に差した剣を示した。

「だから、あなたの力を試させてもらいたい。俺はこの大陸を旅するようになって長い。今はランディと一緒だが、一人旅も経験してきた。それなりの技量もあるつもりだ。その俺を納得させるだけの技量があるなら、ロディオ殿も安心して、あなたを送り出せるんじゃないかと思ったんだが」

 その言葉の意味するところを察して、椎菜は顔をしかめた。アレスが椎菜の力を試す――つまり椎菜がアレスを打ち負かせば、依頼を破棄することに異を唱えない、ということだ。そもそも彼は護衛の依頼を受けるような人間だ。その腕前も相応のものだろうから、本当に負かすことが出来れば、ロディオを諦めさせるいい口実にはなる。だが。

 ――あえてそういう提案をするってことは、自信があるってことだ。

 椎菜を力で――剣で、説得する自信が。力の差を見せつけて、護衛を受け入れさせることが自分には出来るのだと。アレスは、そう言いたいわけだ。

 椎菜は憤慨した。ずいぶんと見くびられたものだと思う。あたしがどんな覚悟をして、この道を選んで進んできたのか、知りもしないくせに。馬鹿にするな。あたしはすべてを賭けてきたんだ。一人でも歩けるように、誰のことも傷つけないように――その強さだけを求めて。

「――判った」

 アレスを鋭く睨みつけたまま、椎菜は頷いた。

「受けて立つ――そのかわり、あたしの腕であなたを納得させることが出来たら、もう誰にも文句は言わせない。ロディオたちにも、そう伝えて」

「あぁ、判った」

 アレスが無表情に返した。一歩進み出て、椎菜を促す。

「一度、屋敷に戻ろう。ロディオ殿に立ち会ってもらわなければならない」

 そして、そのままアレスは歩き出す。椎菜は黙ったまま、後に続いた。しかし、すぐに足を止めて背後を振り返った。

 不意に現れ出でた、不穏な気配。

 気がついたのは、椎菜だけではなかった。アレスも感じ取ったようで、油断なく辺りに視線を走らせている――と、その目が一点で止まった。椎菜もそちらに顔を向け、剣の柄に手をかける。



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