3 フォルトナの剣 しおりを挟むしおりから読む目次へ 少女――シーナが部屋を出てから、ロディオたち夫妻も慌てて、後を追った。ロディオは出ていく間際に、ランディたちにもう暫く屋敷に留まって欲しいと言い残した。シーナは自分たちが説得する、仮に彼女が護衛を拒み続けたとしても、請け負ってもらいたいと。これは、王命なのだ。失敗は許されないのだから。彼は早口で言うと、先に行った妻の後を追っていった。ランディたちは黙って、それを見送って。 「――厄介なお嬢さんだな」 呟いて、ランディは長椅子に身を沈めた。そして少女の言葉を反芻する。護衛の存在が、重荷になる。これ以上は背負いたくない。その思いは、ランディにも覚えがあるものだった。逆の立場に立った今となっては、思うところも多少変わったが――彼女の気持ちは、判らなくもない。 深々とため息をついて、ランディはふと隣に目をやる。そこではアレスがひどく難しい顔をして、考えこんでいた。 「アレス」 「……何だ?」 呼び声に、目を瞬いてアレスが応じた。ランディは身体を起こし、アレスを見据えた。先程の会談の間中、引っ掛かっていたことを訊くために。 「お前、何であの娘には『グリフォード』と名乗ったんだ?」 アレスの姓は『ランダール』、――剣豪と呼ばれた実父のものであるはずだ。ロディオには、そう名乗っていた。それなのに。 彼女を――シーナを目の前にしたとき、アレスは嘘をついた。養父の姓である『グリフォード』を名乗った。それだけでも不審に思った。だが、それより驚いたのは、ロディオがそれを咎めなかったことだ。まるで、そうすることが当然なのだとでも言うように、ロディオはアレスの嘘を受け入れた。それがどうしても、腑に落ちない。 「九年前、あの娘を街まで連れ帰ってきたって言ってたな。……それと、関係あるのか?」 今まで話さなかったということは、あまり他人に聞かせたいことではないのだろう。だが、もしシーナの護衛を引き受けるのであれば、口裏を合わせなければなるまい。彼女に聞かせたくない話だというなら、尚更だ。不用意な発言をしてしまう前に、きちんと確認しておかなければ。 気は進まなかったが、ランディはアレスの横顔を見つめた。アレスは少し迷うようにして、小さく口を開いた。 「『ランダール』の名を聞けば、彼女は九年前のことを思い出す。それは、避けたい」 「……何で?」 そもそもロディオは「覚えている」と言っていたはずだ。多少、混乱はしているようだが覚えていると。それなのに、何故。 それを読み取ったのだろう。アレスは姿勢を前屈みにし、両手を組む。そして、ゆっくりとした口調で話し出した。 |