3 フォルトナの剣
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「ロディオ。あたし、言ったよね? この旅は一人で行くって。こんな危険な旅に、他の誰かを巻き込みたくないって。だから、いつリラに呼ばれてもいいようにって、時間をかけて準備を進めてきたんだ。それなのに、あたしはそんなに信用がないの?」

「信用していないとか、そういう問題じゃない。ただ我々は心配なだけだ」

 苦い表情でロディオが呻いた。椎菜はゆるりと、かぶりを振る。

「同じことだよ」

 椎菜一人に任せることはできないと、そう言っていることに違いはない。

「とにかく――」

 椎菜はその場の人間一人ひとりの顔を見回して、はっきりと言い切った。

「護衛は、いらない。だから、この話もなかったことに」

「シーナ殿」

 立ち去ろうとした椎菜を呼び止める声がした。低い、耳に快い声。椎菜は振り返った。そこで行き合ったのは、ずっと黙って話を聞いていたアレスの青灰色の瞳。それは、やはり先程と同じ哀しげな色を湛えていて。

「――何か?」

 それでも真っ直ぐに向けられている視線に、胸が衝かれるような思いがして、椎菜はおそるおそる訊ねる。どうして、この人はこんなふうにあたしを見るんだろう。知らない人なのに。まるで、あたしのことを知っているみたいに――。

 椎菜が訝しんで見返していると、アレスが静かに口を開いた。

「何故、そうまでして護衛を拒まれるのか」

「重すぎるからです」

 アレスの問いに、椎菜は即答した。アレスが眉を寄せる。

「重すぎる?」

「えぇ。護衛の存在は、あたしにとっては重すぎる。ただでさえ、“剣”としての責務を負ってるんだ。これ以上の重荷を背負いたくない」

「それは、」

「判らないなら、いいんです。あなた方は、それを仕事にしているんだ。判らなくても当然でしょう。だから、理解されようとは思ってません」

 何事か言いかけたアレスを遮って、椎菜は告げた。柔らかく笑んで、――けれど拒絶の言葉を。

「護衛はいりません。あたしは、一人で行く」

 また、あんな思いをするくらいなら。目の前で大事な人を――人の命が喪われるのを目にするくらいなら、一人でいたほうがずっとマシだ。庇われて、守られて、そんな力ない存在になど、なりたくない。

「失礼します」

 一礼して、椎菜は踵を返す。今度は誰も呼び止めない。そのことに安堵して、椎菜は駆け足で部屋を後にした。

 これ以上の話ができるほど、もう気持ちに余裕はなかった。


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