3 フォルトナの剣
しおりを挟むしおりから読む目次へ








「よく、判りません」

「判らない……?」

 両目を細めたランディに、椎菜はあっさり首肯した。

「えぇ。あの“剣”は、あたしが此処に来たときには、既にあたしの手にありました。あたしは……見た目があなた方とは違うから納得してもらえると思いますけど、多分、この大陸の人間じゃありません」

 それどころか、この世界の人間ですらないのだが――それを話すとややこしくなるため、椎菜は口をつぐんだ。元々、ロディオたち夫婦と古くからリウムに住んでいる者しか、椎菜が何処から来たのかを知る人間はいない。そして厄介な事態を防ぐため、余計なことは言わないようにと、言い聞かされてきたのだ。

 だから椎菜は言いつけ通り、いつものようにごまかした。

「記憶がないんです、あたし」

 そう言って、顔を俯ける。

「ここに来て、ロディオたちに助けられるまでの記憶が。みんな、何かの事件か事故に巻き込まれたんだろうって……“剣”っていう厄介なものも持っていたから、だから……」

 そして片手を握りしめ、もう片方の手を口許に当てた。すると程なくして、ランディの気抜けしたような、困ったような声が聞こえてきた。

「あー……悪かったな。そんなこみ入った事情があるとは、思わなかったから……」

 それまでの剣呑な雰囲気が嘘みたいに、ランディはあっさりと引き下がった。嘘泣きは小さい頃からの特技だが――こんなに簡単に引っ掛かってくれるあたり、思ったよりもいい人なのかもしれない。「気にしなくていい」と、かぶりを振りながら椎菜は思った。

 ――だったら、なおのことだ。

 優しい人やいい人を、自分の往く道に巻き込んで、危険に晒すわけにはいかない。ましてや、護衛なんて。

 思い出して身体が震えそうになるのを、椎菜は何とか押し留めた。あの記憶が頭を過るときは、いつもそうだ。どんなに振り払おうとしても振り払えない、血の色に染まった記憶。

 それを無理矢理頭の隅に追いやって、椎菜はゆっくりと立ち上がった。青年たちと養い親が何事かと、目を向けてくる。その視線に臆することなく、椎菜は口角を軽く吊り上げた。

 そして、告げる。

「――ランディ=クリス殿、アレス=グリフォード殿。ご足労頂き、ここまで話を聞かせてしまった上で恐縮ですが、このお話はなかったことにしていただきたい」

「な……」

「シーナ!!」

 ランディの困惑する声とロディオが咎める声が同時に聞こえた。椎菜は一度、目を伏せると、きつい眼差しで養父を見下ろす。



- 16 -

[*前] | [次#]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -