3 フォルトナの剣
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「これは、王命です。ランディ=クリス殿、アレス=グリフォード殿。この件の本来の依頼人はこの国の主、リラ=フィリス=アストリア女王陛下ご本人にあらせられます」

「……っ」

 ランディが息を飲んだ。アレスが驚いたように目を瞠る。

「どうした?」

「いや……」

 アレスの問いに、ランディはかぶりを振った。そして続きを促す。

「すみません……思いもよらないお話だったもので」

「無理もありません。お気になさらず」

 ロディオはやんわりと微笑んだ。だが、その直前に見えた表情に椎菜は首を傾げた。一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、ロディオが目を眇めたように見えたのだ。ランディの反応を試すみたいに。

 気のせいだろうか。二人を見比べながら、椎菜は考える。“フォルトナの剣”の護衛を依頼する以上、少なくともアレスもランディも身元が確かな人間のはずだ。それならば、ロディオがランディにあんな目を向ける必要はなさそうなものだけど。

 だが椎菜のそんな思いはよそに、ロディオの話は続いていた。

「春の終わりに、陛下から直々に命が下されました。『王都に眠るフォルトナの肉体に、異変が表れた。直ちに“剣”を向かわせるように』と。陛下は今度こそ、フォルトナを滅ぼすおつもりなのでしょう。もともとアストリア王家は、“聖魔の巫女”の血を受け継いできた家柄だ。フォルトナを滅し、魔物の脅威を取り除くことはあの方にとっても使命なのでしょうから」

「質問が、幾つか」

 話の切れ目を待って、ランディが片手を上げた。ロディオが鷹揚に促す。

「どうぞ」

「その……陛下は何故、“剣”が此処に、貴方の娘の元にあることを知っていたんですか。そもそも何故、」

 ランディは椎菜に目を向けた。その視線に揶揄するような気配は感じられない。それどころか――。

「彼女が“フォルトナの剣”の責を負うことになったんです?」

「――“剣”が、ずっとあたしと共にあったからです」

 青年の責めるような、疑うような視線を受けて、椎菜は答えた。ロディオが心配そうに見下ろしてくるが、構わずに続ける。

「陛下が、リウムに“剣”があると知ったのは……即位する三年前、この地に留学という形でいらしたときです。陛下は古代文明に、大変興味を持たれていましたから。あたしは歳が近いこともあって、そのときお会いしました。とても親しくして頂いて、その流れで」

「“剣”の話をしたと?」

「そうです。そのときに、『有事の際には力になって欲しい』と言われました。そして今、あたしは彼女に呼ばれています。だから、あたしは王都に行かなくちゃならない」

「じゃあ、何故あんたが“剣”を持っていたんだ? “剣”の装丁については文献から調べられるだろうから、それを“フォルトナの剣”だと断定できたことは納得できる。だが、あんたはそれを何処で手に入れた?」

 ランディの問いは、次第に詰問するような響きを纏い始めていた。傍らのアレスの表情が驚きに染まっている。ロディオも、マーサも面喰らった様子で彼を見ていて、椎菜もまた怪訝に思いながら、それでも答えを口にした。





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