2 予期せぬ再会 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「お二人にお願いしたいのは“剣”とその担い手の護衛です」 「護衛、ですか」 アレスが確かめるように問うてくる。ロディオは苦笑を返す。 「“剣”の担い手は一応、そこそこの腕は持っていますが……なにぶん女性の身ですから、長旅となると色々と危険もあるかと思いましてね」 「お……女性なんですか?」 ランディが驚いたように、こちらを見た。アレスも微かに目を見開いている。ロディオはますます苦笑を深めた。そのときだ。 「シーナっ!」 日差しが射し込む窓の外から、よく聞き知った女性の怒声がした。立ち上がり、そちらを覗きこむと、声の主であるロディオの妻が、黒髪の小柄な娘を叱りつけているのが見える。 「あれほど前もって言ってあったのに、何事です!? お客さまはとっくにいらしてるのよっ?」 「ご、ごめんなさい! つい夢中になっちゃって……」 娘が首を竦めて縮こまっている。その姿に、ロディオは浮かべた笑みの種類を変えた。そして、アレスたちに目を向けた。 「戻りました」 「え?」 二人が揃って瞬く。ロディオは窓の外を指し示した。 「“剣”の担い手が戻りました」 その言葉に二人は顔を見合わせて立ち上がった。そして外を見て、――絶句したようだった。 「私の、娘です。血の繋がりはありませんがね」 そう告げると、二人の固まった気配がますます強くなった。その様子に僅かに首を傾げつつ、ロディオは続けた。特にアレスの、背中に向けて。 「九年前、あなたが連れ帰ってきてくれた子供ですよ。アレス殿」 「え……!」 アレスが驚いて振り返った。青灰色の瞳が、これ以上ないくらいに見開かれている。隣のランディもびっくりして、アレスを見ていた。だがアレスは構わず、茫然と呟く。 「あのとき、の……? てっきり少年だとばかり思っていました」 「無理もありません。あの頃は髪も短く、身体も痩せていましたからね。まぁ、それは今も大差ないですが……」 「どうりで、見覚えがあったわけだ……」 呻くようにして、アレスが額に手を当てた。そして、その場に座り込んでしまう。 「おい?」 ランディが心配そうに声を掛けるが、アレスは応えなかった。代わりに、暗い声音でロディオに訊ねる。 「彼女は、あのときのことを……?」 「記憶が混乱しているようですが、覚えています。触れないほうがお互いのためでしょう」 「……そうですか」 わざと平らかな口調で言ったロディオを見上げ、アレスは小さく頷いた。そして再び立ち上がり、窓の外を見た。 その横顔はひどく苦しげに歪められていて。 ロディオは暫しの間、それを哀しい気持ちで見つめていた。 第二話『予期せぬ再会』了 |