2 予期せぬ再会
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 リウムの東、四半刻ほど馬を走らせた場所に広がるエバ砂漠――そこには数々の古代遺跡が眠っており、今も尚、発掘作業が続いている。ロディオはそこで発掘隊の指揮を取る考古学者だった。

 あの日も――あのときも、ロディオは遺跡にいた。天気の良い日だった。真夏だったがそれほど暑くもなく、風の爽やかないい日和で。

「グレイはいつも通り、私と早朝から遺跡に向かいました。他の仲間と共に馬車で」

 そのときは、まだ誰もあんな恐ろしい目に遭うなんて夢にも思っていなかった。だから、あのときロディオは普段だったら連れ歩かない娘を、現場に連れて行ったのだ。ずっと以前から付いていきたいと駄々をこねていた、大事な、血の繋がりのない娘。

「向こうに着いて、作業を始めて……半刻ほど経ったとき、奴らは現れました。おそらく、遺跡の最奥から。我々が態勢を整えるより早く、奴らは地上に出てきて襲いかかってきました。我々は、ただ逃げ惑うしかなくて」

「護衛を……グレイ殿以外にも連れて行かれたんでしょう?」

 そのときの光景を想像したのだろう。ランディが僅かに顔をしかめて問うてきた。ロディオは頷く。

「えぇ。剣を使える者、“炎”を操る者……数多く同行していましたが、魔物の数はそれを更に上回るものだったのですよ。それに対して、我々はあまりに無力だった……」

 ロディオは目を伏せる。あのとき現れた魔物は、それまでに彼が遭遇したものより、ずっと力の強いものだった。そもそも発掘現場は未知の領域だ。そこに足を踏み入れるため、あらゆる危険を想定して、ロディオ達はのぞんでいた。だが彼らを襲った出来事は、想像以上の脅威だったのだ。

 戦い慣れしていない学者たちを守りながらの戦闘は、困難なものであっただろう。しかし、その中でもっとも勇敢に戦った人間がアレスの父親――グレイ=ランダールだった。

「彼のおかげで多くの命が守られた。まさに鬼神のような戦いぶりでした」

「だが、彼は亡くなった」

 静かに、ランディがこちらを見た。窺うような視線に、ロディオは黙したまま先を促す。ランディはアレスとロディオとを見比べて、再び問いを口にした。

「ずっと、不思議に思っていたんです。砂漠の遺跡は被害を受け、壊滅したものも少なくなかったと聞いています。しかし、リウムの街はほとんど無傷だったと……怪我人が多く運ばれ、混乱も生じたらしいが、街に居た者は無事だったと。あのとき、何故リウムは助かったんです? 魔物は人間を――生命(いのち)ある者を喰らい尽くす存在でしょう? 何故、街は狙われずに済んだんですか」


「――魔物を一掃する手立てを持つ者が、そのときはじめて目覚めたからです」

 ロディオは答えて、卓上の茶に手を伸ばした。いつの間にかすっかり渇いていた喉を潤して、若者二人を交互に見る。そして、告げる。

「“フォルトナの剣”。それが、あのときリウムを魔物の脅威から救った存在です。そして、これから貴殿方にお話する依頼に関わる者のことでもあります」

「“フォルトナの剣”って……」

 ランディが茫然と言った。

「神獣フォルトナの牙から創られたっていう、あの」

「えぇ。今は堕ちたる神獣の牙から創られた、唯一神獣を傷つけることのできる武器です。そして、その剣の使い手も含めて“フォルトナの剣”と呼ばれています」

 ロディオは青年たちを試すように見回す。二人が居住まいを正した。それを受けて、ロディオは静かな声で言った。





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