2 予期せぬ再会
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「――立派になられた」

 午前の日差しが優しく降り注ぐ邸内の応接間。そこの主人であるロディオ=マグニスがにこやかに声をかけると、目の前の長椅子に腰掛けた若者が目礼した。暗い茶髪に青灰色の瞳をした若者は、名をアレス――アレス=ランダールという。ロディオの古くからの友人の息子であり、また別の友人の養子でもある。

「九年振りになりますか……あのときは色々と慌ただしくて、まともに話す時間もありませんでしたが」

 ロディオが言うと、アレスは穏やかな声音で「ええ」と返した。落ち着いた物腰は実父より、養父に似たのか。九年前、まだ街が平穏だったときに垣間見たアレスは随分と腕白に見えたものだが――思い返しながら、ロディオは青年の成長ぶりに目を細める。

「ランダールの姓を名乗っておられるのですね」

「はい」

 アレスが頷いた。静かな口調で応じる。

「父と同じ道を行くと選んだときに、決めたんです。養父もそれがいいだろうと」

「そうですか」

 それはグレイも喜んでいることだろうと、ロディオは思った。アレスの実父、グレイ=ランダールはその道では有名な、流れの剣士だ。剣豪と呼んでもいいほどの腕の持ち主で、ロディオの仕事場である発掘現場にも護衛として、幾度となく同行してくれた。その最中、彼は帰らぬ人となったのだが。

 その息子が彼と同じ剣の道を志し、一介の剣士としてロディオの前に現れた。不思議な縁(えにし)だと思う。まさか、グレイの――亡き親友の息子にこうして再会することになるとは。ロディオが感慨深く思っていると、もう一人、アレスの隣に座っていた別の若者が口を開いた。

「九年前というと――エバ砂漠の遺跡に魔物が大量発生したときですか」

「その通りです」

 ロディオは若者の目を見て、首肯した。深い、琥珀のような双眸だ。ランディ=クリス、と名乗ったその若者はアレスとは長い付き合いで共に幾つかの依頼を完遂してきた、非常に腕の立つ人間だと――彼ら二人を推薦してきた友人から、お墨付きをもらっている。

 そのランディが、ロディオに対するよりずっとくだけた話し方で、傍らの仲間に訊ねた。

「じゃあ、お前の親父さんが亡くなったのって……」

「その、魔物との戦いのときだ」

「――グレイは発掘現場に居た人間すべてを守ろうと、奮戦してくれたんですよ」

 当時を振り返って、ロディオは軽く俯いた。そう、あのときは――このリウムという街までも滅ぼされるのではないかと思った。リウムの住人すべてを、そんな恐怖の淵に叩き落とした出来事があったのは九年前のことだ。

 赤々とした炎と暗い血の色と、それから禍々しい闇色の異形たちの姿。それがまざまざと脳裏に蘇ってくる。





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