10 旅路の夜 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「リラに会うってことは、つまり王宮に行かなきゃならねえわけだが……今のうちに言っておくと、俺はそこまではついて行けない。つーか、あまり行きたくない。だから、俺はお前を王都までしか送れない。王宮へはアレスと二人で行って欲しい」 「……どうして?」 椎菜は一度、アレスの表情を確認してから、疑問符を掲げた。アレスが特に咎めてくる様子はなく、内心でほっとした。他人の過去を訊ねるというのは、距離の取り方がなかなか難しいものだと、今更ながらに実感する。必要だからとはいえ、どこまで踏み込んでいいものなのか、躊躇ってしまう。椎菜自身の中にも、その境界線があるから尚更だ。 そんな迷いに気づいたのだろう。ランディが珍しく含みのない、優しげな笑みを浮かべた。一瞬だけ、どきっとして椎菜は不自然にならない程度に目を逸らした。それと同時にランディが口を開いた。 「はっきり言うと、俺は実家から勘当されてるんだよ。あー、理由は聞くなよ? 情けねえ話だからな。言いたくない」 わざとおどけた口調で、けれどはっきりと拒絶の意思を示して、ランディは語る。 「うちの親父は武官でさ。リラの父親……先代の国王陛下から気に入られてて。あと、俺の歳がリラの、兄貴と――近かったってのもあってさ。家族ぐるみで親しくさせてもらってたんだよ」 『リラの兄』という言葉だけ、やけに言いづらそうにランディは言った。自分でも『しまった』と思っているのだろうか。彼はまた自嘲するように笑う。ついさっきの笑みとは違う、不自然な笑顔。椎菜は怪訝に思いながらも、それを表情に出さないようにして沈黙を守った。その代わりとでも言うように、今度はアレスが口を開く。 「それで『幼なじみ』なのか」 「そういうことだな」 アレスの言葉をランディは肯定した。それを聞いて、椎菜は眉を寄せて考えた。 ランディとリラが『幼なじみ』である理由は、簡単にだが理解できた。だが、まだ疑問は残っている。彼は父親が武官だと語っていた。しかも、一国の王から特別に目を掛けられていたと。それから考えるとランディ自身、かなり身分の高い家柄の人間なのではないのだろうか。だったら、あのときの話し方の変わりようも納得がいく。あれは人の上に立ち、命じることを訓練してきた人間の振る舞い方だ。ランディもきっと幼い頃に、リラと同じような教育を受けたのだろう。おそらく、その将来を嘱望されて。だが、彼はその家を勘当されたのだという。 |