10 旅路の夜
しおりを挟むしおりから読む目次へ






「元々、流れる人間には過去に理由(わけ)ありの者が多いからな。その内容も大抵聞かれたくない、聞かせたくないようなものがほとんどだ。だから、そのときの仕事に支障がない限り、滅多なことでは突っ込まないのが暗黙の了解になっているんだ」

「それは……えーと……」

 ごめんなさいと謝るべきだろうか、やはり。知らなかったとはいえ、椎菜が今やろうとしていることはルール違反のようなものらしい。急激に居心地が悪くなってきて、椎菜は席を立とうかと身動ぎした。それを男二人が同時に制する。

「知らなかったのだから、仕方ないだろう。大体あなたの質問を不快に思ったなら、最初からこの人はあなたを相手にしていない」

「そういうことだ。あのときも言っただろ? 後で話してやるってさ。色々あって遅くなったけどな。……ていうか、もうとっくに知られてるもんだと思ってたし」

「どういうこと?」

 椎菜が訊ねると、ランディは自嘲するような笑みを浮かべた。

「【剣】の護衛なんていう、大役を任されるんだ。それに相応しい人間かどうか、当然調査されるだろ。出身とか、経歴とか。それで少しでも女王陛下に害があるような事実が見つかれば、候補からは外される。俺の場合は言い逃れも出来ないくらいの『関係者』だからな。……ちょうどいいと思ったんだろうよ」

 そう言って、ランディは居住まいを正した。それに合わせて、椎菜もきちんと椅子に座り直す。アレスもそうだ。いつもと変わらない生真面目な表情をランディに向けている。椎菜も真っ直ぐに彼の目を見た。深い、琥珀色の双眸が静かにこちらを見返している。

 二人分の視線を受けて、ランディは一度目を伏せた。余計な力を抜くようにして、ふーっと長い息を吐く。そして再び目を開けたときには、いつもの彼に戻っていた。瞳に自嘲する色は見つからない。普段通りの、掴み所のない笑みを浮かべ、さばさばした調子で口を開く。

「一応仕事に関わることだから、アレスも聞いておいてくれ。……この旅の目的地は王都レグリナード。そこでリラに会って、フォルトナの所に行く。それがシーナ、お前の目的だ。そして、そのお前をリラの元へ無事に連れて行くのが俺とアレスの仕事だな?」

 椎菜とアレスはそれぞれに頷いた。二人の様子を見てから、ランディは話を続ける。

- 91 -

[*前] | [次#]






「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -