10 旅路の夜
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 機会がなかったとはいえ、ここまで黙っていたことを話せと言っているのだ。ただでさえ曲者の印象の拭えない相手が、素面の状態でどこまで真実を話してくれるのか。疑問ではある。

「別に、俺は嘘はついてねえぞ」

 雰囲気から察したのだろう。ランディがそう嘯いて、笑みを深めた。椎菜はぴくりと表情を動かして、口を開く。

「つまり、全部を話すつもりはないってこと?」

「その必要があるとは思わねえからな。そもそもお前は俺の昔話が聞きたいわけじゃねえだろ?」

 確かにそうだ。別に椎菜はランディの過去に興味があるわけではない。椎菜はこくりと頷いた。

「うん。その辺りはどうでもいい」

「そうきっぱり肯定されても、何か虚しいもんがあるんだが……まあ、いい」

 ランディは一瞬だけ顔をしかめて、それからゆるゆるとかぶりを振った。気を取り直すようにして器を手にして、またそれをあおる。身体に染み渡る酒の余韻に浸っているのだろう。ランディは両目を閉じて頬杖をつくと、今度はやけに静かな口調で話し出した。

「俺は嘘は言わない。だが、全部は話さない。それで良ければ、続きを話してやるよ」

 そう言って、試すような目で椎菜とアレスとを見比べた。

「もっとも、端から信じる気がねえなら、何を話したって嘘にしか聞こえないだろうけどな。――どうする?」

「聞く」

 椎菜は即答した。それに軽く頷きを返して、ランディはアレスにも問う。

「お前は? 聞くか?」

「……仕事に関係あるか、ないかによるな。貴方も自分から話したいと思ってるわけではないのだろう?」

 少しの間を置いてから、アレスが言った。それを聞いた椎菜は驚いた顔で彼を見た。

「アレスは聞いたこと、ないの?」

 彼とランディは長い付き合いをしている様子なのに。二人の間に、この手の話題が出たことがなかったというのは意外だった。今まで気になったり、しなかったんだろうか。心底不思議に思って、椎菜は首を傾げた。そんな彼女に、アレスが苦笑してみせた。

「俺たちみたいな流れ者相手に過去を詮索するのは、あまり褒められたことじゃないからな」

「そ、うなの……?」

 言われた内容にぎょっとして、椎菜は慌ててランディに目を向けた。だが、当の本人は肩を竦めるだけで何も言わない。仕方なく、椎菜は気まずい思いを抱きながら、アレスの言葉に耳を傾けた。


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