10 旅路の夜
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 あのとき――魔物が椎菜を拐いにきて、それをアレスが食い止めてくれていた間。現場に戻ろうとした椎菜と、そうさせまいとしたロディオの押し問答を止めたときの、ランディの立ち居振舞い。あれと同じものを、椎菜は以前見たことがある。リラが家臣に向けてするものと、そっくりだったのだ。上から命令することに慣れている、硬質な威厳のある話し方。ランディはそのやり方で、厳しく詰め寄ってきていたロディオを黙らせてしまった。養父と彼の見た目や年の差を考えると、それは少しばかり異様な光景に椎菜には見えたのだ。

 そのときに一度、椎菜はランディに素性を訊ねている。彼はしれっとした口調で『流れの剣士』などと答えていたが、嘘を嘘と知っていて騙されてやるほど、椎菜は馬鹿ではない。結局、それから立て続けに色々あったせいで、問い詰める機会を失っていたが、旅に出て少し余裕が出てきた今となっては、真相が気になって仕方がない。

 信用していないというのとは、少し違う。椎菜に――【剣】に害を為すような人間が、わざわざ護衛に選ばれるわけがない。だから、そういう意味では問題はないのだけど。それでも、やはり落ち着かないのだ。目の前に、いつまでも解消されない謎があるというのは。

 そんなわけで、椎菜はもう一度ランディに訊ねてみることにしたのだった。彼の素性とリラとの関係を。もっとも、この男がただで口を割るとは思わなかったので、酒で酔わせてから話を進めようと考えていたのだが。

「……当てが外れた」

 ぼそりと不満げに呟くと、隣に座っているアレスが苦笑した。椎菜はそちらを軽く睨んで、唇を尖らせる。

「もっと早く教えてくれれば良かったのに」

「別に訊かれなかったからな」

「そこは何となく察してよ」

「無茶を言うな」

 呆れたように、けれどどこか楽しそうにアレスが言った。すると、それまで黙って酒を飲み続けていたランディが不意に吹き出した。

「何?」

「いや」

 拗ねたような口振りの椎菜に、ランディはにやりとした笑みを浮かべた。

「ま、考えとしては悪くなかったけどな。結局、こうして話してやってるわけだし」

「それはそうだけど……」

 椎菜は顔をしかめて、自分の茶器に手を伸ばした。中身は宿の主人が用意してくれた香茶だ。ほんのりと甘い味のそれを飲みながら思う。

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