10 旅路の夜 しおりを挟むしおりから読む目次へ 魔物に襲われてから数日経った後、椎菜はどうにか自身の心に折り合いをつけて、アレスとランディの存在を受け入れることにした。つまり、護衛をつけることを了承したのである。ロディオとマーサはようやくほっとした表情を見せていたが、やはり椎菜の胸中は複雑だった。誰かを、何かを自分の犠牲にしてしまうことを、椎菜は未だに怖れているから。 それでも椎菜が一歩を踏み出したのは、やはり状況が芳しくないことを理解していたからだ。リラから正式な要請があったのが、春の終わりのことで、今はもう本格的に夏を迎えつつある。色々と準備があって、それなりの時間を要したのは事実だが、やはり急いだほうが良いことに変わりない。 王都にあるフォルトナの肉体には、既に変化が現れているらしい。封印されていた状態でも、多くの魔物を呼び込んでいる存在が完全に目覚めたらどうなるのか――悠長に構えていられないことだけは想像できる。まして、椎菜は現実に目の当たりにしているのだ。魔物のもたらす恐怖と絶望を。他の人間まで、そんな目に遭わせたくはない。だから椎菜は抱き続けていた恐怖心をどうにか飲み込んで、アレスたちと共に旅に出ることに決めたのだった。だが、そうするに当たって、ひとつ気になることが残っていた。それは今、椎菜の前で機嫌よく酒を飲んでいるランディのことである。 アレスが椎菜に対して最初から気安かった理由や、護衛を引き受けた理由は先日の話を聞いて納得できた。だからといって、素直に守られるだけの身分に甘んじるつもりはないが――でも、理由が分かったから。これ以上、無駄に拒む必要はないだろう。元々、悪い人ではないのだし。椎菜はそう思って、アレスの存在を受け入れることにした。 だが、ランディに対してだけはずっと態度を決めかねていた。彼だって、別に悪い人ではない。第一印象こそ最悪だったが、彼がいてくれたからこそ、魔物を撃退できたのだ。ランディが仕事をする上で、かなり有能な人物だということは椎菜も充分理解している。だからこそ、リラも彼を護衛にと推してきたのだろう。人選としては間違っていない。それでも、椎菜はまだランディとの距離感を決めかねている。それは、あのときの彼の態度の変貌ぶりを見てしまったからだった。 |