ほしいもの。

彼女の目は美しかった。
今はもう見ることは叶わないけれど。

彼女の目は何処にでも居る茶色の瞳だった。
けれども彼女の目つきは見るもの全てを美化するようだった。
彼女が眺めたもの全てを俺は欲しがった。

けれども彼女は見ることをやめてしまった。

それは彼女が連れ去られたことが原因だった。
彼女は暗い部屋に監禁されて、毎日毎日暴行され、身体をもてあそばれて。
俺が助けに向かったときは只の人形のように丸くなったまま動かなかった。

そして一言いった。

「もう、何もみたくない」

そうして、君は目を塞いだ。
醜い自分の姿など。
ボロボロになったこの身など。

助けに来るのが遅すぎた、俺の顔など――――・・・。



「名前。おいで」


かすかに身体をぴくりと動かす。
しかし返事をしない。
俺が何処にいるのかは分かっているハズなのに。


「名前、ここだ、おいで」
「歩けないよ。目が見えないもの」


そういうと名前は自分の手をそっと動かして両目を布の上から覆った。
それを見て俺は小さく溜息をついて名前に近寄った。


「本当は、歩けるくせに」
「歩けない。あの日あたしの足は死んだ」
「本当は、見えるくせに」
「見えない。あの日あたしの目は死んだ」


そう、何度もなんども繰り返した。
願わくば、願わくばそうなって欲しいと。
そうすれば、もう二度と連れ去られたりしない。
あんな醜い自分の姿なんて見なくてすむから。

そうやって、君はいつまでにげますか?
そっと、名前の両目にキスをする。


「やめて、元親、やめて」
「お前の目にいつの日か、光が戻ったら」
「やめて・・・やめて・・・!!!」
「行こうな、砂浜に。二人で」


あやす様に髪を撫でると、名前の両目を覆っていた布が湿った。


ああ、分かっていた。
名前が光を取り戻すことなどないということ。
遅すぎた。何もかもが。
その目はもう使い物にならないことくらい、分かっていた。
その目は、俺も、光も求めていない。
只、ただ安息というなの暗闇が欲しかった。何も見えない、何もしない。



なんにもない無が。



そんななかでも、そんななかでも俺はお前の光になりたかった。
俺の左目は、すでに死んでしまっているけれど。
お前の目はまだ光があった。希望があった。


しかし、もうその希望はない。
あるのは虚無感と罪悪感。そして、潜在意識の中の暗闇という逃げ道。



彼女の目は美しかった。
今はもう見ることは叶わないけれど。

彼女の目は何処にでも居る茶色の瞳だった。
けれども彼女の目つきは見るもの全てを美化するようだった。
彼女が眺めたもの全てを俺は欲しがった。


―――――今、彼女が見つめているものとは。




(安息な日々か。安息な死か)




★お礼

うぉおお!有難うございます!
黒糸さんのシリアスは本当に好きだよぉ!ちょっと悲しい中に愛を感じるこのストーリーに万歳!!
元親可愛いなぁ…。
しかも何もないのに元親夢を書いてくれた君はKANARI優しいぜ!黒糸さんにも万歳!!


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