君待月


私の頬をその武骨さからは想像できないくらいに柔らかに包むその手が憎々しい。
私は、帰ってくかるすら定かではない誰かをひたすら待つなどできない。この時代の女性ような性分は持ち合わせていないのだ。(この世界の住人ですらないのだから当たり前だ) いっそのこと、その手を払って、苛立ちを込めた雑言を吐いてしまいたい。これ以上は待てるわけがない、何が海賊だ、何が乱世だと叫んでしまいたい。それが芯から湧き上がる本音なのだから、そうやって本心をさらけ出せばいいはずだ。権利がないとはいわせない。

「元親、私は…っ、」
「名前、」
「……っ、」

しかし、そう思うにもかかわらず、私はまたもや言葉紡ぐ機会を呼吸とともに奪われてしまった。貪欲な獣のように何度も唇を噛みつかれる。武骨な手を払うはずの手も、私の頬を包んでいたはずのそれに奪われた。
暫く経ち、束縛から解放され、ひとつ呼吸をおくと、今度は海と同じ色をした瞳と視線がぶつかった。そして、何かを思う間もなく、その後に触れるだけのキスがひとつだけ静かに落とされた。なんて、温かい。なんて、柔らかい。喉奥に呼吸が絡まり、言葉が詰まる。胸が切ない音を鳴らす。
何故、あんな荒々しいキスの後に、こんなに優しく静穏なキスができる。この男は狡い。このたったひとつキスから伝わるその柔らかな温もりで、私へ向けた愛しさを私に知らしめるのだから。それは私の心を何度でも奪ってゆく。悔しいことに、私の心を徘徊していた苛立ちをかき消してゆく。
ああ、情けない。結局のところ、たったこれだけのことで自分を残して海へと出ようとするこの男を私は再び許してしまうのだろう。

「いつも悪ィ」
「こ、今回だけ、今回だけだから。それ以上は待ってやらないっ」
「わかってるさ。すぐに帰ってきてやる。じゃあ、行ってくるぜ。すげえお宝、期待して待っていな。天下って名のお宝だ」





この世の果てで合う約束を、
(待たせるのが君だからこそ、何度でも待ってしまうんだ)(欲しいものは天下じゃない)






End



★お礼

うわぁぁ!相互記念にこんなに素敵な夢貰ってもよろしいのでしょうか!?(と言っておきながら既に貰っている人)
有難うございます!
現代っ子ヒロインとても可愛らしいです。それになにより元親が男らしくて…鼻血がっ!←
朔馬様の文才は本当に美しいです。憧れます。
これからも宜しくお願いします!


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