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ガタンゴトン。
電車が夜の町を行く。車窓から外を眺めると、似たような景色が延々と続いていた。暗がりの中に点々と灯りがあって、夜とは大抵どこもそんなものだ。けれど、不思議なことに、今、こんな場所は見覚えがないと確信にも近い思いがある。
はっとした。どういうわけか、電車の行き先が分からない。それどころか、なんで電車に乗っていたのかさえも忘れてしまった。辺りを見渡せば、いつも込み合ってる車内に今日は私と銀髪の男だけで、ますますおかしい。
この恐ろしい事態に救いを求めるべく、普段ならば決して話しかけることなどないであろう、その変わった風体の男に思いきって尋ねてみることにした。
「あの、この列車、どこ行きでしたっけ」
男は悲しそうに笑って答えた。
「地獄行き」
≪ああそうだ、私自殺したんだった≫
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