それはほんの数秒の出来事で、私はどれひとつ見逃すまいと目をひん剥いて見つめる。
 戦場に舞い踊る蝶。誘惑するような妖艶な黒い瞳には隙があるようで隙がなく、しかし甘い蜜に誘われた虫たちは愚かにも浮ついた足取りでほいほいと近づいてくる。玲瓏な声で静かに笑罵するのを合図に、火花が散った。虫たちは燃え上がり、呻く間もなく順々と崩れ落ちていく。海のごとく広がる火の中、涼しげな顔で立っていたのは気高き蝶だけだった。さあ次へと無言の指示を出すためにこちらを振り返ったその表情に迷いはない。
 矢が飛び交う戦場の真ん中を果敢にかつしなやかに駆け抜けていく後ろ姿を追いながら、この人だったら殺されても構わない、そう思った。

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